日本語の語尾「だ」の使い方
助動詞「だ」の用法をきちんと扱っていない学習コンテンツもよく見かけるので、本サイトでは文法的な存在意義にまで抜かりなく説明したいと思う。
普通は語尾表現なんか無くてもいい
「だ」で終わる文章は名詞述語文であり、特にこれといった語尾表現の付いていない文章だ。
書き言葉では、後ろに何も付かない動詞・形容詞や、「名詞+だ」を使って文を締める。
なので、おしゃべりで使うには堅苦しいように思われるかもしれないが、必ずしもそうとは言い切れない。
話を聞いてくれれば良くて、特に何かを相手に働きかけたいわけでなければ終助詞を付けない。
ちなみに日本語では、主語を特定できる物がなければデフォルトで一人称になるらしい(ただし、行動の主体というよりは発言の主体)。
会話で終助詞を付けない文例1
- みそカツはあんまり好きじゃない。
- 文脈上「誰が」を示す物はないが、話し手自身のことであろう。
- 雪が降ってる!
- おいしい!
- うれしい。
- 自分の気持ちをただ聞いてほしいだけの時などは、何も付けなくていい。
そのほか、会話の中で「どの言葉を選ぶべきか」というような場面では、何の終助詞も付かない単語を発することがある。
会話で終助詞を付けない文例2
- 「欲しい?それとも、いらない?」「欲しい!」
- 帰れない。私ひとりじゃ。
本当に単なる動作・状態を手短に言いたい時は、対話でも終助詞の無い言葉になる。
会話で終助詞を付けない文例3
- じゃあ、行ってくる。
- こら、どこ行く!?
- あっ、先生が来た!
- あげる。
というように、くだけた会話だからといって、やたらめったら語尾表現をちりばめるわけではない。
特に会話では疑問文に「〜か?」をあんまり付けないので、日常的には語尾のつかない疑問文が多い。
終助詞は可愛い飾りではなく意味のある物なので、使い方についてはそれぞれのページで解説しよう。
体言止めが多い
名詞述語文については、対話文では「だ」を外した「体言止め」の方がよく使われる。
会話の体言止めの例
- なに?
- あっ、見つけた。これ。
- 「これ」の後に「だ」を付けない、話し相手に対する発言
- そう、それ!
- 「そう」にも「それ」にも「だ」を付けない、話し相手に対する発言
- 続きは明日!
これは話し言葉の特徴として把握しておく必要はあるけど、「『だ』を付けたらキツく聞こえるか」みたいな解説には慎重でなくてはならない。
これが「だ」の使い所だ!
「〜だ。」で締める名詞述語文は書き言葉であるが、場面によっては話し言葉でも使うことがある。
文末が「〜だ。」で終わる名詞述語文は、実際の会話では主に独り言や自問自答の中に現れる。
「〜だ。」を用いる対話文の例
- なんだ?
- そうだ、思い出した!
- あっ、見つけた。これだ。
- そう、それだよそれ!
- 「〜よ」等の終助詞をつなげる場合「だ」の省略は文法上許されない
- 「これ、なぁんだ!」「あ、猫だ!」
- あっ、来た。先生だ!
- よし、続きは明日だ!
- 「決定!!」というニュアンスを持たせる時には、対話でも「明日だ。」と言うこともある
- なんだ、びっくりした。ただのぬいぐるみか。
- 「なんだ○○か」は慣用表現としてこのまま覚えて良い。
- 命を大切にしない奴なんて大嫌いだ!
- きさまに掛ける言葉はこの一文だけだ。以上。と、会話に終止符を打つ。
「だ」を付けることは時制(テンス)を明示することにもなるので、「あ、わかった。○○だ!」みたいに物の名前を言い当てる時や、物に気づいた時には「〜だ。」で終了する会話表現も珍しくない。
対話文でいちいち語尾を「〜だ。」で締めるのは、いかにもドラマの男性俳優っぽい言葉遣いではあるが、男性的な言葉遣いという意味ではない。
教材を作ったりする時も、あまり役者特有のしゃべり方に引きずられないように気をつけよう。
「体言止め」として文末から「〜だ。」を省く事はあっても、文中から「〜だ〜」を省く事はないので注意しよう。
たとえば否定文「〜じゃない。」や過去形「〜だった。」などは話し言葉であっても必ず付ける。
「だ」を付け外しするとカワイイ・カッコイイ等というキャライメージで解説する事は控え、構文上での存在意義にこそ注意を払いたい。
「〜だ。」の文法について
カーリング女子の「そだねー」が流行語になって、日本語の「だ」の大切さについて改めて考えさせられた。
文法の話とかめんどくせぇと言う人もね…「よしよし、いい子だねぇ」を10回ぐらい唱えれば「だ」というパーツの存在意義がよく分かる。
さてさて……動詞や形容詞は単独で述語にできるが、名詞は単独では述語にできない。
したがって目的語が名詞である場合は「名詞 + だ。」「名詞 + です。」とすることで述語文を作る。
「果物だけど野菜だよ。」を「果物けど」とか「野菜よ」みたいに「だ抜き」にしてはいけない。
日本語の文章は「述語+接続助詞+述語+終助詞」とつなげていくのが鉄則であり、バランスとかリズムの問題もあるので老若男女を問わず守って頂きたい。
助動詞の「〜だ。」を断定口調みたいに考えていると後々誤解が生じるので、「ピリオドを打つ物」ぐらいに考える事をオススメする。
疑問文で「〜だ?」を使う事は避けられる傾向が見えるが、平叙文ではむしろクッション言葉として働いてくれるので、使うべき所でしっかり「だ」を使う方が聞こえが良い。
気分によって「だ」を付け外しするという物でもない文法事項なので、あんまりここには感情的な議論を持ち込みたくないが、適度な終止符を打つという事は「余計なことは言わないよ」といういさぎよさのひとつでもある。
ところで日常会話では「ビンはここ。カンはそこ。」のように、後ろに接続助詞や終助詞の続かない文では「〜だ。」を省略する。
おしゃべりは終わりなく続く物だから、やたらとピリオドを打つのも変だという気持ちもあるのかもしれないが…
文章を途中でぶった切る事については文法上問題にならないので、いわゆる「体言止め」という物が許されるわけだ。
ちなみに「だ」のアクセントは格助詞の場合と同じになるが、詳しくは アクセント のページで。
終止形接続の助動詞「だ」
「終止形接続」する物の代表格は「〜らしい」というヤツだが、他にも「〜だろう」「〜ではないか」がある。
終止形接続の例
- 始まるらしい。 / 始まるらしいです。
- 始まるだろう。 / 始まるでしょう。
- 「始まる」が動詞の終止形、「だろ」が助動詞の未然形、「う」が助動詞
- 始まるではないか。
- 「始まる」が動詞の終止形、「で」が助動詞の連用形、「は」が副助詞、「ない」が否定詞(形容詞)、「か」が疑問の終助詞
- 猫じゃないらしい。猫じゃないだろう。猫じゃないじゃん。
- 猫だったらしい。猫だっただろう。猫だったじゃん。
- 猫らしい。猫だろう。猫ではないか。
- 名詞に直接くっつける事ができるという特徴がある。その場合は現在・肯定の名詞述語文になる。
この他、丁寧語の文型で「始まりませんでした」「うれしいです」のように、動詞や形容詞の直後に強引に「です」をくっつけた形が存在するが、言語学的には変な構文だと思って良い。
(変だとは言っても、一般的に使われている文型なので、実際に使う上では問題ない)
動詞や形容詞の直後に「だ」をくっつけるのは、これらの場合に限られる特例だと考えよう。
その他の例
- 始まるみたいだ。 / 始まるみたいです。
- 「始まる」が動詞の終止形、「みたい」が名詞、「だ」が助動詞
- 始まるそうだ。 / 始まるそうです。
- 「始まる」が動詞の終止形、「そう」が名詞、「だ」が助動詞
- 始まるようだ。 / 始まるようです。
- 「始まる」が動詞の連体形、「よう」が名詞、「だ」が助動詞
- 猫みたいだ。 / 猫みたいです。
- この「みたい」も終止形接続なので、先程と同じように、名詞に直接くっつける事ができる。
- 猫だそうだ。 /猫だそうです。
- 「そう」は述語の終止形としかつなげないらしい。したがって名詞述語文を作るために「だ」を付け足している。
- 猫なようだ。 / 猫なようです。
- 「よう」はただの名詞。おもいっきり連体修飾の形をしているよね。
直後に「だ」がくっついてる事から分かるように、この場合の「よう」「そう」「みたい」はsyntax上では名詞になる。
一般的な学者は違った用語を当てたがるけど、名詞だと思った方が構文を理解しやすいはず。
実はこんなに違う「うそだ!」と「うそよ!」
「猫よ。」「猫ね。」みたいに「だ」を挟まない物は間投助詞であり、後からちょっと言葉を補う時に使う。
このため「だ」を付けた場合と異なり、独立性のない発言になる。
「だ」が付かないのは不完全な形の文章である、ということに由来する。
足りない部品を手渡しているイメージだ。
A「これが合掌造りだ。」
B「うそだ!ただ三角形なだけだし。」
AさんとBさんは互いにそれぞれ、自分なりの主張をしている。
文脈的にはAさんとBさんの意見は対立し合っている。
A「これが合掌造りだ。」
B「うそよ!ただ三角形なだけだし。」
この場合、実はBさんはAさん側に付いてるであろう(少なくとも敵対はしていない)人間であり、Aさんの言葉に補足をしている。
「なぁんちゃって、うっそー!」という最後のオチを与えている感じになる。
一時期流行した「うそぴょーん!」はこの「うそよ!」「うそよーん!」から生じた台詞だ。
[要出典]
君は「そうだね」と「そうね」を使い分けられるか
- 「タイのラーメンって基本的に米麺なの?」
「そうだね、ベトナムフォーみたいな感じの。」
- 「まあ、これで完成って所かなぁ。」
「そうねー、他に足りない所は見当たらないし。」
質問に対する回答としてはキチンと「終助詞」の形にするので「そうだね」と答えた方がいい。
「そうね」という言い方はあいづちの代表格だけど、これ単独では文章の締めにはならない。
キチンと相手に伝わるよう話すという観点からは、質問に対して「そうね!」だけ返すのはNG会話。
(ちなみに「そうね」はあいづちの一種として男性でも比較的よく使う。女性特有ではない。)
イラストでうまいこと表現すると、「きれいだね」と答えた場合はお互いに独立したふきだしで話している感じ。
「きれいね」は相手のふきだしに付箋を貼り付けているか、ちょこっと短い文を書き足す感じになる。
ところで「い」で終わる単語は形容詞と間違えやすいので「〜みたいね」とかいう「だ抜き言葉」を不用意に教材で使わないように気をつけてほしい。
間投助詞については「よ」と「ね」のページでさらに詳しく説明する。
丁寧語の「です」は省略せずに必ず付けることとされている。
したがって体言止めの「そう、それ!」間投助詞の「それでね…」は「そう、それです!」「それでですね…」という形になる。
ニュース・新聞の日本語がヤバい件
ちなみに、誰かさんが流行させた「女性語」という枠組みについてだが…
あれを日本語の文法に取り入れる事については、私は大反対の立場だ。
反対理由については役割語のページで語るとして、まあ、
女言葉・男言葉の概念は、庶民の言葉に見られる文法体系との相性が悪いのでバッサリと切り捨てた方が楽でいい。
ここでいう相性とは好き嫌いの問題ではなく、差込プラグの形状が違うとか、砂糖と塩の違いとか、それに等しい次元の話である。
男性は「これはペンだ」女性は「これはペンよ」とルール化すれば話者の性別を判断できる、日本語すげぇ……
と自慢してみたところで、実際に日本語で生活している身として、それは果たして嬉しいことだろうか?
たとえば唐突に「プーチンよ」という発言が出てきたら、それは「おお我らがプーチン!」の意味で解釈される。
きちんと「だ」を付ければ「その人はプーチンである」という意味が正確に伝わるよね。
「即刻引き上げよ」と書いたらそれは「引き上げろ」という命令文で解釈される可能性が大きい。
「引き上げという決定をした」という意味を正確に伝えるなら、やはり「だ」が必要。命令と決定とでは、どえらい違いだね。
あんまり無意味に「だ」を外したり、「だ」と「よ」を入れ替えて遊んでいると、汚い文章を書く癖がつくから程々にしておきたい。
あえて下品だとまでは言わないが、誤植みたいで読みづらい所がある。
漫画の中のおふざけでやってる限りでは、とやかく言うつもりは無かったが、困ったことに新聞やニュースの中でそういう文章を書くヤツがいる。
これはさすがに場をわきまえていないので、完全に下品だと言わざるを得ない。
「みたいだ」「きれいだ」のように意味的には形容詞だけど構文的には名詞述語文であるヤツがあるわけだよね。
その辺りの文法をきちんと扱う上で「てよだわ言葉」は邪魔な存在でしかない。
もしも好き勝手に「だ」を省略できるとしたら、たとえば中国語では「你中国人。」英語では「You American.」と言っても良いことになる(黒人英語がそうらしいんだが)。
「〜じゃ」「〜や」について
「だ」の発音を崩して「じゃ」にすることがある。
いちおう西日本側の方言でもあるが、共通語としては面白おかしく言ってみせているだけの物にすぎない。
特に疑問詞疑問文のツッコミで多いかもしれない。
「何だ、これは?」を崩した「なんじゃこりゃあ!」は某ドラマの名台詞だが、これは不思議なことに、おどけた言い回しとしてリアルでも時々使われる。
「〜や」というのは関西弁としてよく知られている物であり、これも「〜だ」と同じである。
ツイッターなんかを見ていると、共通語で書いてるのに「んやけど」などが紛れ込んでいる事がけっこうある。
これは関西弁を気取ろうとしているだけで(大概うまくできていないが)とりあえず深い意味は無い。