日本語のアクセントを法則で覚える (1)
包括的なアクセント辞典は既存の物があるので、このページでは「できるだけ法則性を示す事」と「意味の区別に関わる物」にだけ焦点を当てる。
時代や地域によって変わってしまいやすい所なので、どこまでルール化できる物なのか不透明だし、全ての単語に対してアクセントがキッチリ決まってるわけではない。
頭・中・尻のどちらにアクセントが有るかだけ注意すれば良く、「何文字目でアクセントが変わるか」というルールは実際の会話ではほとんど意味がない。
助詞のアクセントについて
単語のアクセントの決まり方にはほとんど法則性が無い。
しかし単語そのもののアクセントが分かれば、後に続く助詞のアクセントは一意に定まる。
ドイツ語の名詞は「定冠詞と一緒に覚えろ」と言われるが、日本語の名詞は「助詞と一緒に覚えろ」という所だろうか。
助詞のアクセントの観点から考えると大きく3つに分けられるが、この分類名はウチのサイトの独自用語なので、ご了承ください。
しっぽ振り型名詞
いわゆる「頭高型」および「中高型」。
ネコを / ネコを
カラスを / カラスを
フトンを / フトンを
二拍以上で、末尾が下がり調子になる名詞すべて。
この名詞の後にくっつく助詞にはアクセントの決まりが無い。
特に何もなければ助詞を低い音でしゃべるが、ハッキリしゃべりたい時など話し手の気分によっては助詞が高い音にもなる。
強制尻上がり型名詞
いわゆる「平板型」。
サカナを / トリを / 気を
一拍の低い音になる名詞の全て。
二拍の上がり調子になる名詞の半数。
三拍以上の上がり調子になる名詞のほとんど。
この名詞の後にくっつく助詞は必ず高い音になる。
強制尻下がり型名詞
いわゆる「尾高型」。
木を / 木の
イヌを / イヌの
アタマを / アタマの
一拍の高い音になる名詞の全て。
二拍の上がり調子になる名詞の半数。
三拍以上の上がり調子になる名詞の一部。
この名詞の後にくっつく助詞は必ず低い音になる。
(ただし「二拍以上の上がり調子になる名詞 + の」と言う時の「の」は高い音)
疑問のイントネーションを与える場合「イヌがあ?」のように、一度低い音に落ちた後で尻上がりにする。
複合名詞
元々の単語のアクセントがどうであるかに関わらず、少なくとも次の法則は成り立つ。
- 複合名詞の頭は必ず低い音になる
- 高い音に変わる場所は、複合名詞の2拍目
- ただし方言によっては、前の単語がずっと低い音のままで、後の単語になってから高い音に変わることも
- 低い音に変わる場所は、原則としては後の単語の内のどこか
- 「はんこーき(反抗+期)」みたいに前の名詞の尻が長母音だと、前の名詞の尻で低い音に変わる
- 最後まで低い音に変わらないまま尻上がり(平板型)の複合名詞もある
- 複合名詞が最終的に尻上がりであれば助詞も高い音になるが、尻下がりであれば助詞のアクセントはどうでもいい
これ以外については、あんまり法則性を見出せない。
ネコ + ミミ → ネコミミを
気 + はらす → キバラシを
火 + あそぶ → ヒアソビを
全体が四拍以下の場合、尻上がりの物が目立つ。
どちらかと言うと尻上がりが多い…というだけであり、絶対ではない。
これは熟語との境目が曖昧であるためで、たとえば「ごはん」「火鉢」などのような境目の曖昧化した熟語は複合名詞として扱わない。
ジゴク + ミミ → ジゴクミミを
ネコ + ムスメ → ネコムスメを
キャンセル + まつ → キャンセル待ちを
かく + まちがう → かきまちがいを
全体が五拍以上の場合は、尻下がりの物が目立つが、これも絶対ではない。
二拍の動詞連用形を後ろにくっつける場合は、逆に尻上がりが目立つ。
あとは「○○式」「○○部」みたいな、最後に漢字一文字をくっつけるタイプは○○が何だろうと同じアクセントになる。
イキモノ + カカリ → イキモノガカリを
また、後の名詞の頭文字が濁音化可能なら濁音化させるのが原則だ。
ただし「風邪ひき」「嘘つき」「ちり取り」のように「目的語+述語」という関係を残したい時は、あえて濁音化させず、そのままくっつける。
…という様子だけれど「新 旧 対照表」「出典 不明」 「佐藤 氏」など、単語ごとに区切らないと意味の通じにくい物には「複合名詞アクセント」が適用されない。
複合動詞のアクセント
「つくる」と「あげる」を合成した「つくりあげる」だと、次のようになる。
つくる + あげる
つくりあげる
つくりあげる
このように、元々の動詞のアクセントに関係なく最初の拍と最後の拍が低い音になるのが原則。ただし中央部分のアクセントには、かなり個人差が見られる。
一部の例外は存在する。
とりのぞく
動詞と形容詞のアクセント
動詞や形容詞は、その後にくっつく助詞のアクセントに全く影響を及ぼさない。
動詞も形容詞も、三拍以上なら原則として最初が低い音になる(最初が高い音になる方言もある)。
簡単に、尻上がりと尻下がりの2通りだけに分類しちゃってもいい。
尻上がり
いく / あつい / あがる / はじまる
尻下がり
ない / くる / あつい / さがる / たすける
三拍以上の動詞で「かえる」のように頭が高い音になる物はごくわずかしかない。
以下、このサイト の「動詞すべて・頭高型・3モーラ以上」による検索結果。
頭上がりの動詞
返す、帰す、返る、帰る、通す、通る、入る、申す、相次ぐ
頭が高い音になる形容詞は「いい」「よい」「こい」「ない」の4つしか無い。
形容詞の場合は語尾が尻下がりになる物ばっかりで、尻上がりのイントネーションになる形容詞は例外的にほんのちょっとだけある。
具体的には このサイト の「い形容詞・平板型」による検索結果を見ると分かるが、これもそんなに多くない。
尻上がりの形容詞
赤い、浅い、厚い、甘い、あらい、薄い、遅い、重い、かたい、軽い、きつい、暗い、遠い、眠い、丸い、四角い、明るい、危うい、怪しい、おいしい、悲しい、黄色い、茶色い、冷たい、平たい、やさしい、難しい
唯一注意すべき単語は、下がり口調の「熱い」「暑い」、および、上がり口調の「厚い」。
それ以外の形容詞には同音異義語が無かったりするので、上記のような形容詞であっても、会話ではしばしば尻下がりで発音してしまう事も少なくない。
三拍以上で尾高型の名詞
三拍以上で尻上がりの名詞はほとんど、助詞も高い音になるので、
「アタマを」「ココロを」のようなアクセントの名詞はごくわずかのはずである。
このサイト の「名詞・尾高型・3モーラ以上」による検索結果を見てみると、これぐらいあるようだ。
例
相手を、足場を、明日を、頭を、一度に、いびきを、男を、表を、女を、鏡を、刀を、心を、言葉を、刺身を、寒気が、座敷を、四角を、尻尾を、地獄を、宝を、力を、手元に、峠を、豆腐を、遠くを、通りを、道具を、仲間を、名残を、はかりを、吐き気を、はさみを、柱を、花見を、はんこを、表紙を、昼間に、袋を、返事を、便所を、真上を、真下を、皆を、娘を、役所を、役場を、役目を、屋敷を、ゆうべを、湯呑みを、夜中を、礼儀を、
妹を、弟を、正月を、半年に、一日で、餅つきを、
ふたつを、みっつを、よっつを、むっつを、やっつを、ふたりを
あっちを、こっちを、そっちを、
○○書を、○○署を、○○所を
動詞の連用形から出来た名詞
尻下がりの動詞に由来する三拍名詞は基本的には"尾高型"になると思っていいが、"中高型"および"頭高型"になる例も存在する。
"平板型"になる物は非常に少ない。つまり、助詞が高い音になるのは少ない。
尾高型の例)はなす -> はなしを、はたく -> はたきを、ひびく -> ひびきを、
かえる -> かえりが、たすける -> たすけを、、、ほか多数
中高型の例)おもう -> おもいを、におう -> においを、こたえる -> こたえを、てつだう -> てつだいを、かんがえる -> かんがえを
頭高型の例)このむ -> このみを、たよる -> たよりに
平板型の例)しるしを、いやしを、ほこりを、きがえを、しあげを、しつけを、めざめを
アクセントの変わってしまったスラングもある。ただしこれは特例。
「出会い系サイト」と言った時の複合名詞アクセントをそのまま残した事に由来する。
(元々の動詞)であう
(一般的な意味で)であいを
(恋愛沙汰の意味で)であいを
…みたいな傾向が見えた事もあるんだけど、本件については誰も議論してないので、もうしばらく調査中とさせていただく。
尻上がりの動詞に由来する三拍名詞は"平板型"になる傾向が非常に強い。
例)ちがう -> ちがいを、かざる -> かざりを、、、ほか多数
その他、動詞から生まれた四拍以上の名詞も"平板型"になる物が非常に多い。
例)かがやく -> かがやきを、つながる -> つながりを、、、ほか多数
例外)たのしむ -> たのしみに
アクセントについては長々と書きすぎたので、ページを分けることにした。
次のページでは動詞や形容詞のアクセントを中心に確かめよう。
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