日本語のアクセントを法則で覚える (2)

活用形のおさらい

これから動詞の同音異義語や、活用形のアクセントを考えるにあたって、ちょこっと文法のおさらいをしよう。

過去形や連用形について

過去形や連用形の語末は、例外なく末尾のひらがな一文字によって決まる。
五段活用の場合は次のように音便化するが、それも末尾のひらがな一文字だけで判断していい。
末尾の1文字を取って、代わりに2文字を付ける、という考え方でもいい。
過去形連用形
ったって
いたいて
いだいで
したして
ったって
んだんで
んだんで
んだんで
ったって
ごくわずかに「行く、行った、行って」とパターンの外れる単語もあるが、変化表を単語ごとに覚える必要はほとんど無い。
一段活用の場合は単純に語末の「る」を「た」「て」に付け替えるだけ。

活用形の見分け方

不規則変化は「来る」「する」「行く」の3つだけだと思っていい。
(「問う」「請う」は近代語の残りカスみたいな単語で、決まり文句でしか使わないからあまり重要ではない)

語末が /iru/ /eru/ 以外である動詞はすべて五段活用になる。
語末が /iru/ /eru/ である動詞は五段活用と一段活用の2通りがありえる。
二拍の動詞については個別に覚えるとして、三拍以上で語末が /iru/ /eru/ の動詞は一段活用ばっかりなので次の動詞を例外として覚えるのもひとつの方法だ。

よく使う五段活用動詞

おちいる、かぎる、ちぎる、にぎる、さえぎる、いじる、かじる、ケチる、ねじる、はしる、まいる、まじる
◯◯る、◯◯る、◯◯る、◯◯る、
あせる、かえる、かえる、湿しめる、しゃべる、すべる、つねる、ひねる

たまに使う五段活用動詞

たぎる、みなぎる、きしる、そしる、ののしる、むしる、なじる、ほじる、よじる、いたびる、いびる、ちびる、なぎる、みなぎる、もじる、よぎる、みにじる、滅入めい
うねる、おもねる、かげる、くねる、しげる、そべる、だべる、ぬめる、ふける、ほてる、はべる
(俗語)イキる、とちる、ビビる
否定形の語尾が「らない」になれば五段活用、連用形が「って」と促音になれば五段活用、意向形の語尾が「よう」になれば一段活用……など、覚え方は各自に任せる。
(「上一段」と「下一段」は実質的に同じだから、区別しなくてもいい)

活用表

あえて同音異義語で見比べてみよう。
たとえば「切る」が五段活用、「着る」が一段活用だ。
紙を服を
否定形きらない kir-ana-iきない ki-na-i
過去形きった ki-ttaきた ki-ta
連用形(口語)きって ki-tteきて ki-te
連用形(文語)きり kir-iki
終止形 / 連体形きる kir-uきる ki-ru
仮定形きれば kir-ebaきれば ki-reba
命令形きれ kir-eきろ ki-ro
意向形きろう kir-ouきよう ki-you
一段活用だと母音変化や音便化が全く無くて、ただ切ってつなげるだけという単純な活用になっている…という事に気づいてほしい。

否定形の語尾「ない」は形容詞として活用させる。
形容詞の活用も、切ってつなげるパターンひとつしかない。
紙を服を
二重否定形きらなくない kir-ana-kuna-iきなくない ki-na-kuna-i
過去否定きらなかった kir-ana-kattaきなかった ki-na-katta
否定連用(動詞型)きらないで kir-ana-ideきないで ki-na-ide
否定連用(形容詞型)きらなくて kir-ana-kuteきなくて ki-na-kute
否定の仮定きらなければ kir-ana-kerebaきなければ ki-na-kereba

以下の表では可能・受身・使役の語尾を付けた物を示す。
(「きらす」以外は)全て下一段活用になっているので、例えば否定形にしたければ末尾の「る」と「ない」を付け替えるだけでいい。
紙を服をニュアンス
可能きれる kir-e-ruきられる ki-rare-ru
きれる ki-re-ru
本人がその道具を使って作業することが可能。本人にピッタリのサイズの服。
受身形きられる kir-are-ruきられる ki-rare-ru今回は「何々を何々される」という例文を挙げたので、自分の持ち物を他人が勝手に使ってしまう場面が考えられる。
使役形きらせる kir-ase-ruきさせる ki-sase-ru紙を切ったり服を着る作業を命令する、あるいは、任せる。
自分で服を着れない子どもに服をかぶす。あるいは別の誰かに服をあげる。
使役+受身きらせられる kir-ase-rare-ruきさせられる ki-sase-rare-ru「紙を切らせる」「服を着させる」は命令したり処置する側の言葉であるが、それに対して「着させられる」などは命令や処置を受ける側の言葉になる。
使役+可能きらせられる kir-ase-rare-ru
きらせれる kir-ase-re-ru
きさせられる ki-sase-rare-ru
きさせれる ki-sase-re-ru
「紙を切る」という作業を任せる事ができる。
承諾があったりサイズが丁度良かったりして、その人に服を与える事ができる。
使役形の別形* きらす kir-as-uきせる ki-se-ruこれは個別の単語として覚えたほうがいい。
使役形の別形+受身きらされる kir-as-are-ruきせられる ki-se-rare-ru使役の意味を含んだ単語を受身形にする。
使役形の別形+可能きらせる kir-as-e-ruきせられる ki-se-rare-ru
きせれる ki-se-re-ru
使役の意味を含んだ単語を可能形にする。
使役形の別形+使役きらさせる kir-as-ase-ruきせさせる ki-se-sare-ruこういう二重使役形はヒンディー語やモンゴル語にもあるらしいけど、日本語でむりやり作る事はできなくもない…。
他の誰かにやってもらいなさい、他の誰かに対して使っちゃいなさい、というような意味になる。
今回あげた例では、紙を「切る」が尻下がりで服を「着る」が尻上がりなので、同音異義語でありながらもアクセントの違いがある。

ここで表に載せた「使役形の別形」については、こういう形の存在しない動詞には使うことができない。
「五段活用の語幹+asu」は近代日本語の中に現れる形で、現代語の中にも一部残存している物がある。
「切らす」自体はあんまり使わなそうな動詞だけど、「切らされる」の文法を理解する上では重要。
「着せる」「見せる」など「一段活用の語幹+せる」については実際は独立した単語として見るべきで、今回はたまたま有ったから表に載せたけど、こういう形の動詞はあんまり無い。

ここでちょっと危険なのは、使役形の後に受身形や可能形を組み合わせたりする表現。
これは生粋のネイティブですら大混乱する物なので、決まり文句以外では使わない事を推奨する。
どうしてもそういう組み合わせ表現が必要なら「〜ように言う」「〜ことができる」などを使って言い換えることもできる。

一段活用の可能表現は、日常会話では「食べられる」でも「食べれる」でも、どっちでもいい。
ただし文章語やformalな表現としては、依然として「食べられる」の方が好まれるようだ。

五段活用の「行かれる」を可能表現として用いる例もあるらしいが、これは古い言葉が例外的に残っている物かと思う。現代標準語としては普通は「行ける」という表現でいい。
「違くない」は本来動詞であるにも関わらず、あたかも形容詞のように活用しているスラングである。

ついでだから変格活用2つも見てみようか。
よく見れば一段活用をベースとしているよね。
勉強を学校に
否定形しない si-na-iこない ko-na-i
過去形した si-taきた ki-ta
連用形(口語)して si-teきて ki-te
連用形(文語)siki
終止形 / 連体形する su-ruくる ku-ru
仮定形すれば su-rebaくれば ku-reba
命令形しろ si-roこい koi
意向形しよう si-youこよう ko-you
二重否定形しなくない si-na-kuna-iこなくない ko-na-kuna-i
過去否定しなかった si-na-kattaこなかった ko-na-katta
否定連用(動詞型)しないで si-na-ideこないで ko-na-ide
否定連用(形容詞型)しなくて si-na-kuteこなくて ko-na-kute
否定の仮定しなければ si-na-kerebaこなければ ko-na-kereba
可能できる deki-ruこられる ko-rare-ru
これる ko-re-ru
受身形される sare-ruこられる ko-rare-ru
使役形させる sase-ruこさせる ko-sase-ru
使役+受身させられる sase-rare-ruこさせられる ko-sase-rare-ru
使役+可能させられる sase-rare-ru
させれる sase-re-ru
こさせられる ko-sase-rare-ru
こさせれる ko-sase-re-ru

「カエル」の同音異義語

エルかえる名詞尻上がり後につながる助詞も高い音になる(平板型)。
エルいえかえ五段活用の動詞尻下がり三拍だけど頭が高い音になる珍しい動詞。
エルやりかたえる一段活用の動詞尻上がり
エル100円ひゃくえんえる一段活用の動詞尻上がり元々の動詞「買う」は尻上がりの五段活用。
可能形では必ず一段活用になるが、アクセントは元の動詞と同じになる。
ねこえる一段活用の動詞尻下がり元々の動詞「飼う」は尻下がりの五段活用。
可能形では必ず一段活用になるが、アクセントは元の動詞と同じになる。
ただし通常は一拍目は低い音になる。
「やり方を変える」と「100円で買える」は互いに同じ「尻上がりの一段活用」だ…という事は、どちらも活用と発音がまったく同じになる事を意味する。
これに対して「家に帰る」は「尻下がりの五段活用」なので、実は発音上100%区別可能という事になる。

活用形どうしのぶつかり方

アクセントによる区別とも関係してくるから、ちょっと確認してみよう。
こうやって動詞の形が同じになっちゃうのは、あれだね、スペイン語とかでもよくあるね。

五段活用で末尾が「る」「つ」「う」の動詞は、過去形・連用形で同音異義語が生じる。
以下、アクセントのある部分を太文字にする。

※「る」という動詞については、テ形の連用形や過去形など、使われない活用形があることに注意。

活用語尾の原形が /eru/ で終わる動詞は、他の動詞の可能形とぶつかる事がある。


活用語尾の原形が /aru/ で終わる動詞の可能形は、他の動詞の受身形とぶつかる事がたまにある。

ひかる」「こまる」のような状態を表す動詞を可能形「光れる」「困れる」にする意味はあんまり無い。
「わかる」などのように、可能形・受身形が全く使われない動詞もある。
なので、そういう変形については考えなくてもいいと思う。

活用語尾の原形が /asu/ で終わる動詞の可能形は、他の動詞の使役形とぶつかる事がたまにある。

自動詞「かわく」の使役形「かわかせる」と、他動詞「かわかす」の可能形「かわかせる」は同じ形になる。
しかし、自動詞の使役形と他動詞の可能形とは、結局どちらも同じ状況である…ような気もする。


活用語尾の原形が /areru/ で終わる動詞は、他の動詞の可能形や受身形とぶつかる事が、ごくまれにある。


活用語尾の原形が /ou/ で終わる動詞は、他の動詞の意向形とぶつかる事が、ごくまれにある。

※意向形の語尾は必ず下り口調になる。

願望表現で、五段活用動詞と一段活用動詞とでぶつかる物が、ごくまれにある。

※「〜たい」の語尾が下がるか上がるかは、元々の動詞のアクセントどおり。

過去形と語尾表現「〜んだ」とでぶつかってしまうパターンは、あんまり無さそうだ。

形容詞の活用形のアクセント

形容詞には同音異義語がほぼ無いため、実際の会話ではアクセントの決まりが比較的ゆるい。
また、相手の注意を引く場合は最後の拍でもう一度高い音になることがある。

尻下がりの場合

尻上がりの場合

動詞の活用形のアクセント

どんな変化形になっても元々のアクセントをできるだけ維持しようとする傾向がある。
これについても、相手の注意を引く場合は最後の拍でもう一度高い音になることがある。

尻下がりの五段活用の場合

尻下がりの一段活用の場合

↑このパターンの連用形・過去形は例外的な匂いがするけど、分類に関しては「尻下がりの一段活用」という決まりがあるので大丈夫だ。
四拍以上の場合を参考として挙げると「かなえる」「かえた」「たずさえる」「たずさえた」…というように、とにかく語幹の最後から二番目で高い音が終了する。
(「て」「た」の2つ前にアクセントの核がある、という見方もできる)

尻上がりの場合

頭上がりの場合

次のページはおまけみたいな物だけど、アクセントによって意味が変わる単語を一覧表にして確認しよう。
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