日本語の語尾「〜の」「〜なの」の使い方

「〜の」「〜なの」って言う事もあるの!

大阪弁に「んや」と「ねん」の2つの語尾があるように、関東の言葉にも「んだ」と「の」の2つがある。
平叙文の文末表現であるこの2つの使い分けはルールというよりはトレンドに過ぎない物だが、後半で説明する疑問文「〜の?」は使い分けに注意を要する。
このページでは 〜んだ。 の使い方を理解している前提で話を進める。
これからおまけで説明する語尾「〜の。」とか「〜なの。」とかも、老若男女を問わず日常会話では決して少なくない言い回しなので、どんな場面で使われる傾向があるかをね……探ってみたいの!

ネイティブ会話における2つの文末表現「〜んだ」「〜の」には、場面による使い分けが密かに存在する。
「女性なら『〜の。』男性なら『〜んだ。』を使います」と教わってる生徒たちは、申し訳ないがそれでは永久にネイティブ日本語会話は身につかない。
個人的な感想ではあるが、どっちか片方だけにこだわり過ぎると頭が悪そうに見える。
「私は男性なので必ず『んだ』を使います(キリッ」…別にかっこよくない、かえって表現に深みが無くただのアホに見える。
それだったら、むしろどっちも使わない方がいい。

文法上の扱いについて

語尾表現だからといってなんでもかんでも「終助詞」と呼ばないように注意。
名詞とつなげる時に「〜だの」ではなく「〜なの」となる事からも分かるように、「の」というのは終助詞ではなく、あくまでも「物」という名詞の音便化にすぎない。
そう……「物」なんだよ。だから原則として「物、事、状況、わけ」を意味する品詞として解釈しないといけない。
「の」とか「ん」は助詞に近い使用頻度であることから「準体助詞」という名が与えられている。
その名の通り「名詞に準ずるパーツ」であり、文法上は名詞とまったく同じルールが適用される。
文末の「〜か?」と「〜の?」は、中国語の「吗?」「呢?」みたいに使い方がお互いに異なる……
ていうか、文法上まるっきりの別物だから、次の例を見てほしい。

2種類の疑問文の構造


全然違うよね。「〜か?」と「〜の?」を単純に比較しちゃう人は、文法を分かってない人だ。
ここで、日本語の文章によく出てくる「もの」「こと」「の」の使い分け方について、簡単におさらいをしよう。

「もの」の意味で使う場合

「の」と置き換え可能

「の」と置き換え不可能

修飾語のくっついた名詞「もの」は、日常会話では「の」と省略される事が多い。「ん」にはならない。
ただし「当然である」という意味の慣用句として「もの」「もん」を使う場合は「の」と省略できない。

「こと」の意味で使う場合

「の」と置き換え可能

「の」と置き換え不可能

単に動詞を名詞化しているだけで、動詞自体に焦点を当てている場合(the actionを指し示す場合)は「の」と置き換えることができる。この場合は日常会話ではむしろ「動詞+の」で表す方が普通。書き言葉や説明調で言いたい場合とか、ある行動を取り立てて言いたい時に「動詞+こと」を使う。
一方、特定の意味を持つ名詞として「こと」を使っている場合は、「の」と置き換えることはできない。

「状況」の意味で使う場合

「もの」「こと」と置き換え不可能

このような場合は、どんなに真面目な書き言葉や丁寧語でも「の」という形になる。話し言葉では語順によっては「ん」と音便化する事がある。
文末表現として使われる「の」は、このパターンにあてはまる。
Object でも Material でもないので「もの」を使えないのは明らかだが、「こと」との使い分けはちょっと難しい。
簡単に言ってしまえば、状況というよりも言動を指し示している場合、ピクトグラムひとつで表したり吹き出しで表したりできるような物なら「こと」を使える。

「そっちのがいい」は「そっちの方がいい」の省略だが、この場合の「の」は格助詞である。
間に「な」を挟んでいない事から判別できるが、混乱しないように注意しよう。


というわけで、ここから文末表現としての「〜の」の解説に入っていく。

平叙文「〜んだ」と「〜の」の違い

意味合いの違いを強いて言うならば……
きちんと述語終止形で締める「んだ」に比べると、アクセントをつけない「の」は相対的にトーンダウンした印象を受ける。
しかし逆に、発音を崩さずアクセントをつけて「の!」と言うと、「〜という物だ」という原義が表に現れてくる。

まず第一に、今手に持っている物の説明で「〜の。」を使うと、ものすごくピッタリと来る。
次に、「〜という物だ」というニュアンスが強まるため、教えさとすような意味合いがより強くなる。
親がよく使うと思うの。
自分側の状況を何が何でも話して聞かせたい意味合いも、より強くなる。
ちっちゃい子とか、ぶりっ子がよく使うと思うの。
ただ、そういう属性の人に限らなくても「ここ大事な話」とか「今私は問題を抱えている所だ」という場面では「〜の。」を使うことが多い。

(アクセントについては「〜んだ」の説明ページにまとめた)

文例

「動詞+の」「形容詞+の」「名詞+なの」というように、名詞の場合は間に「な」を挟む。
これは文法上のお約束事なので、「な」はキャラアピールをしてるとか、そういうわけでは決して無い。
ちなみに「〜のだ」という言い方もあるが、このようにすると書き言葉的な文章構造に近くなるため、カタブツな言い方に聞こえるのだ。

「〜の。」は基本的におしゃべりで使う言葉遣いで、モノローグには向かない。
独り言では「〜んだ。」を使う。
メアリと魔女の花のセリフ「私、今夜だけは魔女なんだ。」みたいに「個人的に理解できた」の意味では必ず「んだ」になる。

「〜んだ」と「〜の」を真面目に使い分ける


知る人ぞ知る このサイト の説明をパクって言うなら「心理的に近いか遠いか」…それによる使い分けがあるのではないかと考えている。
「んだ」は大人っぽくて「の」は子どもっぽい…なんていう、いい加減な説明をしてはいけないのだが。
傾向としては、「〜んだ。」を使うと私情を脇に置いて説明してる印象があり、上手に使えば落ち着きのある大人びた印象を与えることができる。
特にバックグラウンド的に事情を語りたい時は「〜んだ。」がピッタリだが、反面、当事者意識の欠如した印象を与えるデメリットも隠れ潜んでいる。

一方で「〜の。」を使うと一人称の意味合いを帯びる傾向がある。
じいさんの会話をサンプリングした時には、身の上話のところで「〜の。」という語尾が非常によく現れた。
しかし悪く言えば「わがまま」に聞こえる言葉でもあり、「当事者性」を強調するために使う程度なら構わないが、いい年した女が公の場面で「〜の。」を連発するのはダメな気がする。
特に「自分の関係する事、自分のとても興味ある事」ではないのに「〜の。」を使うと、けっこう不自然な感じになる。

しかし逆に、一人称現在進行だとか物体の説明ではむしろ「〜の。」を使った方が自然な言葉に聞こえる。
なんでもかんでも「〜んだ。」だけ使えば良し、というのはネイティブ会話としては不自然な感じを否めない。

また、仮にもしも女性が主に用いる言葉だったとしても、ただ付けるだけで女性的になれると思ったら大間違いで、そんなのは目的も知らないで適当に乳液を塗りたくってるのと同じことだ。
男性的・女性的っていうのは「非言語コミュニケーション」の要素なので、文法の教材でそんな説明が出てきたら、その先生は何かとんでもない勘違いをしている可能性がある。

結論としては、やっぱり語尾の「〜んだ。」と「〜の。」は場面によって使い分けることが望ましい。
丁寧語では「〜んです。」ひとつになるから、こういう使い分け問題は発生しないけど。

「〜の?」を使う疑問文、使わない疑問文

「〜んだ?」を使う場合は「疑問詞」を含むパターンしか無いのに比べて、「〜の?」を使う場合は汎用的に疑問文を作れるという点も特徴として大きい。

さて、これは中国語やタイ語からヒントを得た解釈であるが、疑問文には2通りある。
「の?」を付けない疑問文は「はい/いいえ」で答えるべき質問、すなわち「諾否疑問文」だ。
疑問詞疑問文であればその穴埋めを要求する。
これは口調の問題ではなくて、日常的にストレートな答えを求めるべき場面というのがあるので、それをよく思い出してみよう。

一方で「の?」を付ける疑問文は自由回答であり、詳しくお話を聞きたいことを表している場合が多い。
「〜の?」で質問されたら「はい/いいえ」で答えてもいいけど、具体的解説をしてあげるとなお良いだろう。
「本当にやるの?」みたいに、相手の答えに対する再確認みたいな使い方もある。
また、相手が「〜の?」を使ってきたらそれは単なる驚きを表してるだけの事もあり、答える必要すら無い場合…というのも有り得る。
「の」が単なる「物」という名詞にすぎない場合もある。

私の一目置いているブログ 日本語教師の広場 でも、「んです」の使い所については詳しい説明が試みられている。
「一概にそう言えるかな?」という部分はあるけど、おおむね適切な説明になっていると思った。
で、日本語学習者の中から「その質問に『の』を付けるのは不自然だと言われた」という相談はけっこう挙がるはずなのだよね。
基本的に、いきなり新しい話題を出す時は「それおいしいですか?」と、まずはストレートな疑問文で話しかける。
既に話題に挙がっている時や、話の続きをする時は「それおいしいんですか?」と使い分ければ良いはずだ。

2種類の疑問文の例


疑問詞「どこ」と一緒に用いた例


疑問詞「どう」と一緒に用いた例


疑問詞「なに」と一緒に用いた例

疑問詞「なぜ」と一緒に用いた例

「〜の?」を使う疑問文の使い分け

一時期話題にあがった「英語の What's your name? は失礼か」がその後どのように決着したか知らないが…
このように疑問文というヤツは、場合によってはぶしつけに聞こえるような事が起こりがちだ。
日本語の場合、タメグチの質問で「〜だ?」「〜か?」を使うことは避けられる傾向がある。
しかし質問に「〜の?」を使うべきかどうかは文脈次第だとしか言いようがない。
この二人は単なる雑談をしているので、Bさんにとって「いつごろ届くか」は知らなくても困らない事だ。
Aさんにとっても特に重要な事柄でないため、ストレートな疑問文は似つかわしくない。

単一の事柄だけを知りたいだけなら疑問文に「の」とか「ん」とか要らない。
Aさんは荷物の配達現場の状況までは詳しく知らないと思うので「それは、いつごろ届く状況か」を聞かれても戸惑う部分があるかもしれない。

これは法律相談をしている場面。質問の仕方としてはどっちでもいい。
「YesかNoか知りたい」気持ちか「詳しく話を聞きたい」気持ちか、それぐらいの違いしかない。

偏りなく文例を集めれば「〜の?」という語尾の有無と言葉の柔らかさの間に相関性は無い。
疑問文が柔らかいかキツイかは、声の調子や文脈的に「反語」であるかどうかに依存する。
詰問のようになってしまうのは、話の流れで「なんでそんな事を聞くのか分からない」時で、「の」や「ん」を付けるかどうかとはあんまり関係ない。


平叙文の語尾「〜んだ。」「〜の。」については、私としては場面による使い分けが望ましいと思っているが、半分は好きにしろとも思っている。
ただ、疑問文に「〜の?」を付けるかどうかは場面による使い分けが必須だ。
「『〜の』は女性や子どもが使うとかわいい」だとかいう説明は、日本語のレッスンでは絶対にやめてほしいんだよ。
それを言っちゃったら、すべての疑問文に一律「〜の?」をつけて良いことになってしまうだろう?
(というかそんな説明をする人は、確実に何かの漫画のキャラを思い浮かべているわけだが)
「女性的に感じる」というのは単なる個人的感想だし、そういうエセ脳科学みたいな話と文法・用法の話を混ぜないでもらいたい。

ところで、「〜の。」という文末表現は平叙文なのか疑問文なのか見分けにくい場合がたまにある。
なので文面では平叙文は「〜んだ。」とした方が誤解が少ない。
あるいは、疑問文には必ずクエスチョンマークを付けるという事を習慣づけてくれるといいんだけどね。


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