終助詞「な」の使い方 / 日本語の語尾
「〜な」もよく使うなあ。
これは独り言だな。
隣で話を聞いている人がいたとしても、特に返事は要求しない。
逆に言うと、「な」を使うと返事をもらえる確率が大きく下がるという事だから要注意。
会話を一旦OFFにしてひとりで物思いにふける時の言い回しで、日本語の感嘆・詠嘆の表現としては、おそらくこれが最も典型的だろうなあ。
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語尾の「〜な。」は老若男女を問わず欠かせない物であり、独言・感嘆のほかに、願望を表す言葉としても重要度が高い。
言葉の品位は使い手次第なので、すぐに「きれいな言葉」「汚い言葉」と決めつけるのでなく、ひとつひとつ丁寧に用例を見ていこう。
独り言を表す
- いやあ、今日はよく運動したなぁ。
- あれ、おかしいなぁ、どこにしまってあるんだろう。
- 火が通ってきてるな。
- 「なんか言い争ってたの?」「あぁ、あの話はなぁ…」
心の声を表す
- 熱心な人だなと思いました。
- 悪い事をしてしまったなぁ。
- 確かになぁ…
- あぁー、今日は寒いなあ。
- 「まあまあ、まずは落ち着こうよ。」「(心の声)お前がな。」
- どの花見てもキレイだな♪
- いい湯だな♪
願望を表す
- あ、いいなあ。このドレス欲しいなあ。
- 個人的な感情や願望である事を表すためなら、会話でも使える
- 私もあれくらい上手にできたらなあ。
- いいな、いいな、人間っていいな♪
- そうだったらいいのにな♪
他者と共有しない表現
- お前、こういう時ほんとダメだな。
- 少しは察しろという意味を込めて
- 語尾の「ね」とは逆に、相手と意見を共有できないであろう事を暗示しており、キレてる時に出やすい表現
- さては、つまみ食いしたな。
- 自分の勝手な推測であるため、同意を表す「ね」は使えない
- わるいわるい、待たせたな、みんな。
- いてててっ、痛いなあ。
- (姿を見られたお化け)見〜た〜な〜
- 自分の勘違いである可能性を残し、相手に弁解の余地を与えている。ある種の優しさだと受けとめてくれ。
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ここまでの例文を見て、日本語ネイティブであれば「ああ、こんな使い方、あるある」と振り返っていただけるだろうけど…。
ちゃんとした国語教育が無かったからなのか何なのか、庶民の使う語尾「な」の説明をきちんとできない人が多い印象だった(とりあえず代表的な詠嘆表現だと言っとけば済む話なのに)。
いったいどれだけヤクザ映画のイメージに染まっているのか、日本語の教材では「男性のぶっきらぼうな話し方」など偏ったイメージだけで紹介される事が多い(よりによって、なぜそっちに偏るのか理解できないのだが😧)。
これがネイティブ会話へたどりつく上でのひとつの障害になっているわけだが、ドラマやアニメの中で女の人たちが使っているのを見て、なんとか独学でニュアンスをつかんでいるのかなあ…。
私とて、タイ語の語尾 "แฮะ" についてのドキュメントが乏しい中、自力でニュアンスを見出したからね(これは独り言の意味で100%日本語の「〜な。」に訳せる)
たとえば、有名なドラえもんの歌「こんなこといいな♪できたらいいな♪」「空を自由に飛びたいな♪」あそこで使っている語尾「な」が何物なのか説明してほしいわけだよ。
不完全な文章の後に「〜な」をくっつける間投助詞的な用法もある。
「だ」「よ」「ね」の解説ページでは終助詞と間投助詞の違いをうるさく説明したが、
語尾の「な」に関してはほとんど独り言だからという理由もあり、それほどニュアンスの違いは見られないので、とりあえず気にしなくていい。
「ね」と「な」の比較
「いいね」と「いいな」は決定的に意味が異なり、置き換えることができない。
置かれている立場が同じであるか否かで語尾の「ね」と「な」を使い分ける傾向が目立つので、発音が似ている割には意味はヤバイくらい違ってると思うんだよね…
「いいね」と「いいな」
- 「あ、それいいね!」
- 「あ、それいいな!」
- 自分も真似をしてみたくなる(おそらく独り言として)
- 「いいね、お金たくさんあって。」
- 「いいな、お金たくさんあって。」
- 「びっくりしたねー」
- 相手が(もしくは皆が)ビックリしただろうと思っている
- 「びっくりしたなー」
- 自分ひとりがビックリしている(相手がおどかしてきた等)
- 「風邪治るといいね。」
- 「風邪治るといいな。」
- 原則として話し手自身の願望・期待を表す(ただし相手や他人について述べる事は可能)
「な」は普通は自分ひとりの気持ちを表すものだが、グループの気持ちを表す事例もたまにある。
「〜な」を「〜ね」と同じ意味で使ってしまう事について
「ね」と同じ意味でむりやり「な」を使う事も少なからずある。
ただし語尾の「な」は現代語では独り言としての意味合いが強く、下手に使うとシカトを食らう。
このような使い方をしたいのであれば、あなたと会話しているんだという事を別途に身振り手振りで伝える必要があるだろうなあ。
「な」を「ね」と同じ意味で使う(非推奨)
- それより、今日はキレイな服を着てるな(スッ)。
- 「ねえ、あの話どうなった?」「ああ、昨日の話な(ピンッ)。」
- 明日までにやっといてくれよ。いいな?
- じゃあ、またな(ビシッ)。
- ついでに届けて来てやるからな(グッ)。
- それな
誰かさんが言うには「男はこういう時、語尾の『な』を使う」らしいが、現実的に考えてそれはガセネタだと思っている。
一歩譲ってこういう使い方を認めるとしても、もし私が辞書を作るなら10番目以下の語義として載せるし、こんな用法をトップに持って来るとかありえない。
まあ、ここに性別の話を持ち込むと、また例によってエセ脳科学の話が始まりそうだけどね…。
少なくともこれから日本語を学ぶ男性に推奨すべき言葉遣いじゃないから、レッスンで取り扱う価値は無い(少しでも載せてしまうと、「な」という語尾自体が男性的であるかのような誤解も与えるので)。
「ね」と「な」を使うべき場面の境目は実際のところ曖昧で、両方とも使える場合もある。
けど、あくまでも語尾の「な」の用法は独言・詠嘆・願望および他人と意見を共有しない場合。
ネット掲示板では「な」を使う人の方が多い気がする。所詮、独り言の集合にすぎないからね。
ミーティングでああでもないこうでもないと呟いてる場面でも「な」が増えると思う。
しかし明らかに確認・同意・補足・あいづちを表す場面では語尾の「ね」を使わないと会話が成り立たない。
「ね」という語尾がありながら、わざわざその使用を避けるというのはただのアホ。
補足事項
方言の「な」
本ページで扱うのは現代語・共通語なので、方言についてはあまり触れない。
私の考え方だと「方言は外国語」なので、それぞれ独立した教室を開くべきだと思っているからだ。
ただ一応知っておくといいのは、共通語の「〜ね。」が一部の方言では「〜な。」に変わることもあること。
(その代わりに詠嘆表現の「〜なあ。」は「〜のお。」に変わったりする)
なので、「ね」と同じ意味で「な」を使う事があるのは正確には方言の影響。
いずれにせよ大事なのは、これら2つの語尾をきちんと区別して使えるかどうかだ。
禁止形の「な」
もうひとつ、禁止形としての語尾「な」もあって、学習者にとってはその使い分けが問題になる。
詳しくは 命令形 のページで説明するが、これは正直、きちんと説明しているのはウチのサイト以外無いので!!
命令表現の「な」
命令表現の一種である「〜なさい」を省略した「〜な」は、動詞の連用形にくっつけて使う。
これについても詳しくは命令形のページで説明する。
目下に対する表現
年上には「〜ね」を使って年下には「〜な」を使う…みたいなコメントがネット上に有るらしいのだが、そのような使い分け方は一般的には認知されていない。
しいて言うならば、ペットに対して話しかける時は「よかったな」とか言うかもしれない。しかしそれは言葉の通じない相手であるためモノローグの形になったに過ぎない物だ。
また丁寧語で「〜ですな」「〜ますな」という表現は元々存在しない。
いずれにしろ語尾の「な」の使い方はあくまでも上記で説明した通りの物でしかなく、相手が年下だろうとなんだろうと「ね」を使うべき場面では「ね」を使う。
古語の終助詞「な」
「ごゆっくり、おくつろぎくださいな。」みたいな言い回しがあったのを思い出した。
古風な言葉の中に見られるこのような「な」使い方は、現代語の「ね」に相当する。
「てよだわ言葉」にうつつを抜かしてすっかりお忘れの方も多かろう。これは懐かしい。
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参考文献: 終助詞「な」の意味用法について