日本語の語尾「です」「ます」の使い方
文体を見比べてみる
ネイティブは慣用句(idiom)の蓄積で覚えるから、例えば このような表組み を作ってみても、あまりキレイにならない部分はある。
動詞の場合
| 書き言葉 | 話し言葉 | 丁寧体 略式 | 丁寧体 正式 |
終止形 | 始める。 | 始める。 | 始めます。 | 始めます。 |
過去形 | 始めた。 | 始めた。 | 始めました。 | 始めました。 |
否定形 | 始めない。 | 始めない。 | 始めないです。 | 始めません。 |
過去否定形 | 始めなかった。 | 始めなかった。 | 始めなかったです。 | 始めませんでした。 |
疑問 | 始めるか? | 始める? | 始めますか? | 始めますか? |
過去疑問 | 始めたか? | 始めた? | 始めましたか? | 始めましたか? |
否定疑問 | 始めないか? | 始めない? | 始めないですか? | 始めませんか? |
過去否定疑問 | 始めなかったか? | 始めなかった? | 始めなかったですか? | 始めませんでしたか? |
動詞の丁寧形は基本的に「動詞の連用形+ます」という形にする。
丁寧語の否定文「しません」と「しないです」はどちらも同じ意味だが、私は聞き間違いの恐れを避けるために「しないです」の方をよく使う。
しかし書面上では「ません」の方が適切なので、両者には "합니다" と "해요" の違いみたいな物はある。
| 書き言葉 | 話し言葉 | 丁寧体 略式 | 丁寧体 正式 |
否定接続(動詞型) | 始めずに、 | 始めないで、 | 始めないで、 | 始めずに、 |
否定接続(形容詞型) | 始めず、 | 始めなくて、 | 始めなくて、 | 始めず、 |
連用形 | 始め、 | 始めて、 | 始めて、 | 始めまして、 |
連体形 | 始める事 | 始める事 | 始める事 | 始めます事 |
順接 | 始めるから | 始めるから | 始めるので | 始めますので |
逆接 | 始めるが | 始めるけど | 始めますけど | 始めますが |
仮定形 | 始めれば、 | 始めれば、 | 始めれば、 | (特になし) |
仮定形完了 | 始めたら、 | 始めたら、 | 始めたら、 | 始めましたら、 |
命令形 | 始めろ。 | (特になし) | (特になし) | (特になし) |
未然形勧誘 | 始めよう。 | 始めよう。 | 始めましょう。 | 始めましょう。 |
未然形推量 | 始めるだろう。 | (割愛) | (割愛) | 始めるでしょう。 |
素人が男言葉だと誤解している言い回しは、正しくは文語だったりする。
日本語の命令形は基本的に書き言葉であるため、話し言葉としてなじまない場合が多い。
丁寧語の命令形「〜ませ」は一部の挨拶言葉に決まり文句として残っているだけ。
仮定形をあえて丁寧体にすれば「〜ませば」となるが、これは完全に廃れている。
裏を返せば命令と仮定には文体の決まりが特にないという事で、何か他の適当な慣用表現を使っておけば良いことになる。
推量表現の会話表現についても、ひとつに定まらないためここでは一部省略した。
手紙やメールなど改まった場面では文末以外でもまじめに「ですます体」にする。
日常的な丁寧語では(どちらかと言えば丁寧っぽい表現を選びつつも)文末以外は「ですます体」にしないことが多い。
名詞述語の場合
| 書き言葉 | 話し言葉 | 丁寧体 略式 | 丁寧体 正式 |
終止形 | 猫だ。 | 猫。 | 猫です。 | 猫です。 |
過去形 | 猫だった。 | 猫だった。 | 猫でした。 | 猫でした。 |
否定形 | 猫ではない。 | 猫じゃない。 | 猫じゃないです。 | 猫ではありません。 |
過去否定形 | 猫ではなかった。 | 猫じゃなかった。 | 猫じゃなかったです。 | 猫ではありませんでした。 |
疑問 | 猫か? | 猫? | 猫ですか? | 猫ですか? |
過去疑問 | 猫だったか? | 猫だった? | 猫でしたか? | 猫でしたか? |
否定疑問 | 猫ではないか? | 猫じゃない? | 猫じゃないですか? | 猫ではありませんか? |
過去否定疑問 | 猫ではなかったか? | 猫じゃなかった? | 猫じゃなかったですか? | 猫ではありませんでしたか? |
否定接続 | 猫ではなく、 | 猫じゃなくて、 | 猫ではなくて、 | 猫ではなく、 |
連用形 | 猫で、 | 猫で、 | 猫で、 | 猫でして、 |
順接 | 猫だから | 猫だから | 猫なので | 猫ですから / 猫ですので |
逆接 | 猫だが | 猫だけど | 猫ですけど | 猫ですが |
仮定形 | 猫なら、 | 猫なら、 | 猫なら、 | (特になし) |
仮定形完了 | 猫だったら、 | 猫だったら、 | 猫だったら、 | 猫でしたら、 |
未然形推量 | 猫だろう。 | (割愛) | (割愛) | 猫でしょう。 |
名詞述語の丁寧形は基本的に「だ」を「です」という動詞に置き換える。
名詞を否定する場合は「ない」という形容詞を用いるが、丁寧体では動詞「あります」の否定形も用いられる。
ちなみに動詞「ある」そのものの否定形「あらない」は使わない言葉なので、「ない」という形容詞を用いる。
形容詞の場合
| 書き言葉 | 話し言葉 | 丁寧体 略式 | 丁寧体 正式 |
終止形 | あつい。 | あつい。 | あついです。 | あついです。 |
過去形 | あつかった。 | あつかった。 | あつかったです。 | あつかったです。 |
否定形 | あつくない。 | あつくない。 | あつくないです。 | あつくありません。 |
過去否定形 | あつくなかった。 | あつくなかった。 | あつくなかったです。 | あつくありませんでした。 |
疑問 | あついか? | あつい? | あついですか? | あついですか? |
過去疑問 | あつかったか? | あつかった? | あつかったですか? | あつかったですか? |
否定疑問 | あつくないか? | あつくない? | あつくないですか? | あつくありませんか? |
過去否定疑問 | あつくなかったか? | あつくなかった? | あつくなかったですか? | あつくありませんでしたか? |
否定接続 | あつくなく、 | あつくなくて、 | あつくなくて、 | あつくなく、 |
連用形 | あつく、 | あつくて、 | あつくて、 | あつく、 |
連体形 | あつい物 | あつい物 | あつい物 | あつい物 |
順接 | あついから | あついから | あついので | あついですから / あついので |
逆接 | あついが | あついけど | あついですけど | あついですが |
仮定形 | あつければ、 | あつければ、 | あつければ、 | (特になし) |
仮定形完了 | あつかったら、 | あつかったら、 | あつかったら、 | あついようでしたら、 |
未然形推量 | あついだろう。 | (割愛) | (割愛) | あついでしょう。 |
形容詞の場合はこのように名詞述語の形を借りている部分が多い。
一昔前は「たこうございます」「あつうございます」「うれしゅうございます」という形容詞の丁寧形もあったらしい。
文体の混ぜ書き
私は新聞のコラムによく目を通しています。
読みながら常々思うのは、「だである体」と「ですます体」を混ぜて使う人が多いという事だ。
「ですます体」の文章の中に「だである体」を混ぜると、その部分は箇条書きか引用文のような印象を与える。
本人にそういう意図があるのなら敢えて目くじらは立てない。
けれど「まあ、なんとなく」という認識なら「おい、コラ!」と言いたくなります。おっと私もですか、こりゃ失礼。
ですます体による「距離感」
ヨーロッパ言語をかじった事のある方なら、日本語のタメ語と丁寧語に相当する「親称」「敬称」って言うのをやった事があるよね。
ドイツ語にもタイ語にもこういう言葉の切り替えは存在するわけだし、この理屈が外国人向けに通じる確率はそんなに低くない。
概して丁寧語で話しかける人の心理は「あ、もし気分を害したなら、これは一般論として聞き流してください」みたいな感じだろうと思う。
いわゆる丁寧語である「ですます体」は対等目下に使うこともあるので「目上に対して使う言葉」という説明だけでは足りない。
私の考える距離感とは、誰かをひいきせずに、みんなと同じように接するためのトリックである。
たとえばあなたが店員さんで、今、複数名のお客さんの相手をしているとする。
この時、ある特定のお客さんとだけ仲良くお話しするのではなく、みんなと対等な立場でお話しをしたいとする。
まさしく、こういう時に便利な話し方こそが「ですます調」だ。
(もちろん本当にひいきしていたら意味がない)
丁寧語でしゃべる深層心理は「あ、これは別にあんた一人だけじゃなくて、みんなにも同じ事を言っているんだからね」みたいなもんだ。
たとえるならば、相手のことを「複数形」や「三人称」のように呼んで客観化し……あぁそうそう、私のこの距離感の考え方はヨーロッパ言語の影響が若干あるかもね。
それとも日本語の「ですます体」はそれとは違う特殊なものなのだろうか。
仮に特殊だとして、それを曖昧論を抜きにしてきちんと説明できるか、というところが重要。
余談で…「距離感」という言葉で少し思い出したことがあったけど、それについては 愚痴専用ページ で。
語尾の「です」「ます」は Yes の意味を含んでいる!?
これはあくまでも私自身の見解であるが、ですます口調の方がむしろ「はい、そうです!」という意思が相手に伝わりやすい。
「できる。」というしゃべり方だと、まだ何か言葉を続けたいような印象があるため、相手は釈然としない顔をしがち。
「暗黙の了解」や「あうんの呼吸」が通用しにくいビジネスシーンでは「ですます体」の丁寧語を使うのが良い。
「親しい関係かどうか」とかマナーとかそういった理屈抜きで、はっきりと相手に伝わるように「できます!」としゃべりたいからだ。
「ですます体」は主に会話表現で使われてきた経緯があり、「あなたに対して教えてあげる」という含みを持っている。
そのため、タメグチの場合と比べて終助詞「よ」を使う必要性は若干小さくなる。
韓国やタイなど、国によっては親に対して敬語で話す習慣があったりするが、日本にはそういう習慣がない。
したがって日本では家族どうしはお互いにほぼ100%タメグチで会話する。
時には「(こども)もっと食べる!」「(親)いけません!」のように、こどもがタメ語で親が敬語??なんてパターンもあったりする。
ただし、この場合の「ですます口調」はYes/Noをハッキリ示すぐらいの意味合いでしか使っていない。
ところでだが、「です」「ます」の後ろにつけられる語尾はかなり限られていて、「よ」「ね」「か」しか使えない。
例えば「〜ですぞ」「〜ですの」「〜ですな」「〜ですかな」は非常に耳慣れない言葉で、「俺専用語尾」みたいな感じになってしまう。
ただし「〜ですっけ。」「〜ですから。」「〜ですもん。」のように、終助詞に分類しにくい物なら好きに付けることが可能だったりする。
丁寧語で「〜か?」を省略すると?
タメグチの疑問文では普通「〜か?」を省略するが、丁寧語では「〜ですか?」「〜ますか?」と話すことがよろしいとされている。
では丁寧語の疑問文で「〜です?」「〜ます?」と言っても良いのか、という話だが……
言っても良い。実際そういう会話はある。ただし使う場面を選ぶ必要はある。
ビジネス会話文例
「すみません、この後、会議室をお借りしたいのですが、いつ頃に空きそうですか?」
「今のミーティングが予定より長引いているので…」
「んんー、そうかぁ…」
「あ、急ぎます?」
「いえ、16時から使うことができれば大丈夫です。」
文末を「です/ます」にすれば良いので、接続詞のところではそうならない事が多い。
「そうかぁ」は独り言なので丁寧語が外れている。
で、この文例の「急ぎます?」というのは、実は質問というよりも間投詞的な表現に近いものだ。
丁寧語における間投詞的用法の一種
- できます?
- 相手の「できる」という答えに対するあいづちに近い物
- これだと、どうです?
- 乗ります?
- いつ始まるんです?
不完全な文章であるという事から、こういったニュアンスが発生する。
いずれにしても、丁寧語できちんとした質問文にしたければ「〜か?」を付けた方が良いだろう。
タメグチの会話でも終助詞と間投助詞の違いは大事だったよね(「だ」「よ」「ね」の解説ページ参照)。
あいづちを打つぐらいなら間投詞でいいが、質問に答える時はきちんと終助詞を使う。
(「そうね」じゃなくて「そうだね」と言う)
日本語学校ではなかなか教えてもらえない所だけど、この使い分けはとっても大切。
【おまけ】日本語でYes/Noと言う方法
ここら辺については、珍しくジェンダーステレオタイプに汚染されていないようだったけれど、念のために「性別は全く関係なしで」と付け足しておいた方がいいね。
ちなみに、「はい」「うん」「ええ」は尻下がり、「いいえ」「いや」は尻上がり。
はい
丁寧語でYesと言いたい時の代表格。
丁寧語に限らず普段の日常会話の中でも、Yesの返事を明確に表したくて使う事は多い。
いいえ
これを文字通りに「いいえ」と発音するのはformalな印象が強いため、主に書き言葉で用いられる。
たとえばコンピュータの画面上では「はい / いいえ」と表示するのが通例だが、ビジネスシーンの会話では「いえ」という縮めた言い方が主流だったりする。
うん
丁寧語ではないくだけた会話で Yes と言いたい時は「うん」と言うことが多い。
一方で、相手にハッキリと伝わる話し方の求められるビジネスシーンにはふさわしくない場合が多い。
ええ
これは「はい」と似ているけれど、質問に答える時ではなく、主に会話途中のあいづちとして使う。
ビジネスシーンでよく見られる。
いや
Noという受け答えとして、丁寧語かどうかを問わず事実上標準化している物のひとつ。
相手の言葉に対して「そういうわけではない」と訂正したい場合に使う。
(これは「いいえ」の縮約形であり、「嫌だ」という言葉とは別だからね、念のため)
ううん
最初の「う」が高い音、真ん中の「う」が低い音、最後の「ん」が高い音。
くだけた会話の中で単純に No の返事をしたい場合はこの「ううん」を使う。
首を軽く横にふる動作をともなうことが多く、半分ジェスチャーに近い。
応答詞だけにこだわらなくても、「オーケー」「そう」「いいよ」「だめ」「ちがう」「やだ」などの受け答えをしてバリエーションを持たせることもできる。
あるいは「映画見に行かない?」に対して「行く。」「行かない。」と、述語終止形を言うだけでも Yes/No の答えがハッキリ伝わる。
「ごめん。」「すみません。」なども明確な No の返事として機能する。
Yesの答え方として「ああ」があるという説もあるが、実際には使われていない。
というか、単なる感嘆詞の「ああ」を誤って応答詞と見なしてしまった疑惑も密かにあるので注意。
一部の教材では、 No という言葉を避けて「あいにくですが、その日は用事がありまして…」などと答えるのが良いと解説されている。
これはビジネスシーンでの婉曲表現としては有り得るが、普段の日常会話でも必ずそうしろという事ではない。