擬音語についての概要と選定基準について
ひとつ前のページ 擬音語一覧 に載せている単語は、この基準によって選ばれています。
概要
日本語の発音は、外来語でしか使わない物を除くとだいたい100個あります。
日本語のオノマトペの基本要素は2つの音節から成り立つので、理論上は 100 x 100 = 10,000個程度存在できます。
(この理論では「スイッチョン」など独特な鳴き声を数え漏らす可能性はあります)
ただし伝統的に語末の母音が /e/ となる物は稀で、一文字目が清音で二文字目が濁音という物もありません。
好んで使われる音にも偏りがありますし、しゃべりにくいのは論外、どんなに多くてもさすがに5桁は行かないだろうと言えます(笑)。
擬音語はその見かけによらず高い語彙力を求められる上級レベルであり、両方の言語に対してネイティブでなければ翻訳することが難しいのが現状です。
したがってドイツ語の非ネイティブがドイツ語のオノマトペを論じるなど無謀です。
数え方
同音異義語は1件として数えます。
数えすぎを防ぐため、「ごろっ」「ごろん」「ごろり」「ごろごろ」などはグループ化して1つの物として扱います。
(ただし辞書に載せる場合は、いちいち独立した見出しにした方が親切かもしれません)
語末に「ん」をつけるのは動作が一回きりで終わる事を表現していて、具体的に指し示す物の違いはありません。
語末に「り」を付けるのは擬音語を副詞化するための文法事項であり、特に意味は変わりません。
「がっかり」「ドッキリ」「ぱったり」「ばったり」「もっこり」「さらっと」「ごっそり」など、一度副詞化された言葉は特別な意味に転用されることがあります。
他にも「どさくさ」「ちらほら」「ぎくしゃく」「どぎまぎ」といった言葉もたぶん擬音語由来かもしれませんが、これらはもっぱら副詞として用いられていて擬音語としての使い方ではなくなっているため、本ページではあまり扱いません。
一方で、「からから」「かりかり」は母音の違い、「ころころ」「ごろごろ」「ぎょろぎょろ」は清音・濁音・拗音の違いです。
カパッと開けてカポッと閉めるみたいに、母音によって方向性の変わる flip-flop 的な組み合わせもあります。
これらについては、わずかな違いのように見えても具体的に指し示す物事は異なるので、別物として数えます。
数えない物
本ページの趣旨は「一般庶民の毎日の暮らしの中で意思疎通をするにあたって、全部でいくつのオノマトペがあれば事足りるか」を調べることです。
例えば「きゃりーぱみゅぱみゅ」の音象徴を研究するという趣旨ではないことを、あらかじめご了承ください。
- 明らかに名詞・形容詞・動詞を重ねたと見られる言葉は除外します。
- オノマトペの基本要素に逆変換できない副詞は除外します。(…と言っても何の事か分からないけど、詳しくは下記)
- とっさに口に出してしまいがちなワンフレーズも、誤って含めないよう注意します。
- 本ページでは感嘆詞も含めています。
- 漢字熟語は対象外です。中国語としてはオノマトペ扱いできても、純粋な日本語ではないためです。
- 例)こんこん[滾滾]、もんもん[悶悶]、ごうごう[轟轟]、ひょうひょう[飄飄]、さんさん[燦燦]
- 三音節以上の物は創作性が強いため、全て対象外とします。
- 例)パカラパカラ、ふしゅるる、くんかくんか、ピポパポ、ぷんすか、どんぶらこ、ちちんぷいぷい
- 明らかな著作物・商標名は除外します(意味が無い)。
- 例)ドナドナ、ぬぷぬぷ、みょんみょん、ぱにぽに、くぴくぴ、ぴるぴる
- 特定の漫画にしか出てこなかったり、一個人の勝手に考えた擬音語など、市民権を得ていない物は対象外です。
- 例)めめたぁ、ぎゃぽ、コキャッ、むきゅー、ほよほよ、おっふ、ドギャーン、ゆんゆん、めこめこ、もにゃもにゃ
- 特に、ハンドルネーム、ペットの名前、ブログのタイトルなどを誤って加えないように注意
- 例えば「もしょもしょする」とかはご本人様のデタラメ語なので、「ほにゃららする」「アレする」とか言っているのと変わりません。
- 辞書に載っていても使用頻度が低すぎたりして、現代人には意味を推測できない物は除外します。
- 例)えたえた、こせこせ、がぼがぼ、ぜりぜり、ぼくぼく、ほたほた、しっぽり、したした、しなしな、すんすん、そぼそぼ、てらてら、はらら、むたむた、けへんけへん、ぽやぽや
- 古語や方言を加えるべきかどうかは状況次第ですが、ある程度の認知度があれば加えても良いでしょう。
- その他「ブピョッ」だの「プシーッ」だのと、聞こえた音をそのまま口真似したに過ぎない物は入れません。
- アダルト小説の擬音語の多くは、単語として扱うレベルに達しないと見なして採用しませんでした。
※さらに、いくつかの外国語でも似たような擬音語があるかどうかも確認できれば信頼性が向上します。
「日本語のオノマトペが殊更に多い」理由を語らせると霊的な話になりがちなので、あまりオカルトチックにならないよう気をつけたい。
繰り返し言葉について
外国語のオノマトペの数が少なく見積もられているのは、動詞・形容詞・副詞などが原則的に除外されているからです。
なのに日本語のオノマトペを数える時はどうして畳語や副詞のような物が平気で紛れ込んでくるのか…
フェアプレイの精神なくして、数を増やしたいばかりになんでもかんでもオノマトペにしてしまうと、多言語比較研究をやろうという時に辻褄が合わなくなります。
しかしオノマトペであるかどうかの線引きは本質的には難しく、誤解も含めて色々と議論が渦巻いているかと思います。
例えば「英語の cut は擬音語由来か?」などの議論もありえるわけです(由来を確かめていくと、別にそういう訳じゃなさそうですが)。
音象徴から考えると「卵が先か鶏が先か」みたいな話になってしまいますが、明らかに名詞・形容詞・動詞を重ねたと見られる言葉など、以下のような単語は本ページの擬音語一覧から外されています。
繰り返し言葉 | 語源 |
あせあせ | 焦る |
あたふた | あわてふためく |
あつあつ | 熱い |
あっさり | 浅い |
あやふや | 啊や乎や(?) |
いがいが | 毬々 |
いきいき | 活き活き |
いじいじ | いじける |
いそいそ | 急々 |
いらいら | 苛々 |
うきうき | 浮き浮き |
うずうず | 疼く |
うとうと、うっとり | 諸説あり |
うっかり | 浮く |
うねうね | 畝々 |
うやむや | 有や無や |
うらうら | 麗らか |
うるうる | 潤む |
うろうろ | 仏教由来の説や「おろか」を語源とする説 |
うんざり | 倦んず |
おじおじ、おずおず、おどおど | 怖々 |
おたおた | お助け(?) |
おろおろ | 愚、疎 |
かくかく | 角々 |
からから | 枯々 |
がみがみ | 噛む(?) |
きちんと、きっちり | 几帳面 |
きびきび | 厳々(?) |
くたくた | くたばる、くたびれる |
くだくだ、くどくど | くどい |
くねくね | くねる |
くよくよ | 諸説あり |
こつこつ | 兀々、矻々 |
こんがり | 焦がる |
ぎざぎざ | 刻む |
ぐじぐじ | 諸説あり |
ぐずぐず | 口舌る(?) |
ぐっすり | 諸説あり |
ごたごた | 仏教語 |
ごみごみ | 芥々 |
ごわごわ | 強々 |
さばさば | 捌く |
しげしげ | 繁々 |
しずしず | 静々 |
しっかり | 業界用語 |
しっくり | 業界用語? |
しなしな | 萎びる |
シビビビ | しびれる |
しぶしぶ | 渋い顔 |
しましま | 縞々 |
じゅんじゅん | 諄々、順々 |
しらしら | 白々 |
しらーっ | 白ける |
しわしわ | 皺々 |
しんみり | 沁みる |
しんしん | 深々、沈々、涔涔 |
すごすご | 悄々 |
すべすべ | 滑々 |
せかせか | 急々 |
そくそく | 惻惻、促促 |
そよそよ | 戦ぐ |
じぐざぐ | zigzag |
じっと | 凝と、熟と |
じめじめ | 湿る |
ずたずた、ずだずだ | 寸寸、段段 |
たじたじ | たじろぐ |
ちぐはぐ | 道具の名前 |
ちやほや | 蝶よ花よ |
ちんたら | 業界用語 |
つらつら | 熟々 |
てかてか、てらてら | 照? |
ときめき | 時めく(諸説あり) |
だるんだるん | だるい |
でっぷり | デブ、出っ張り |
でろでろ | お化けが出る |
なみなみ | 並々 |
にぎにぎ | 握る |
ぬくぬく | 温もる |
ぬるぬる | 塗々 |
ぬめぬめ | 滑る |
ねばねば | 粘る |
のうのう | 伸び伸び、暢々 |
のろのろ | 鈍い |
ひやっと | 冷や汗 |
ふくふく、ふっくら、ふっくり | 膨ら |
ふつふつ | 沸々 |
へたへた、へとへと | へたれる |
ほじほじ | 穿る |
ほっこり | 方言の「ほこる」 |
ほとほと | 殆 |
ほんのり | ほのか |
ばらばら | 散々 |
ぼうぼう | 茫々 |
ぼけーっ | 呆ける |
まごまご | 諸説あり |
まじまじ | まじろぐ |
まちまち | 区々 |
まったり | 全(まった)し? |
みすみす | 見す見す |
みっちり | 密 |
みるみる | 見る見る |
むしむし | 蒸す |
むちゃ、めちゃ | 仏教語 |
もじもじ | 捩る |
もちもち | 餅々 |
もみもみ | 揉む |
もやもや | 靄々 |
よじよじ | よじ登る |
よれよれ | 縒れる |
わなわな | わななく |
特に「ひらがな4文字」「2回繰り返している」「促音がある」という理由だけで安易に数え入れないよう注意します。
一方「すかすか」は「空く」「透ける」が語源だとされますが「すかーん」「すっかすか」「すかっ」「すっからかん」という用法を見ると擬態語に化けてしまっている感があります。
「がたつく」「ざらつく」「ちらつく」「きらめく」「よろめく」などの類は擬音語の動詞化とも考えられます。
真にオノマトペらしい単語のよりすぐり
私にとっての擬音語とは、ビシャーッズゴゴゴーッというくらい、もっとワイルドで原始的な言葉なんです。
元をたどれば全ての単語は擬音語を祖先とするのかもしれませんが、はんなりおっとりした言葉は精錬されすぎていて……らしくないんですよね。
物の多いことを表す「どっさり」は擬音語の「ドサッ」に由来するので、「どっさどさ」とか「どっさんどっさん」などの言い方もできます。
一方「さっぱり」という単語のどこかオノマトペらしくない所は、「爽やか」という言葉が語源らしいのと「サパッ」「サパサパサパ」「サパーン」というダイナミックな可変性が無いからです。
特に「○っ○り」「○ん○り」系の単語はほとんど何かの名詞・動詞を変形させた物に過ぎないのです。
たとえば「すんなり」「げんなり」という単語がありますが「スナスナの、げな〜ん」なんて表現は見たことがありません。擬態語らしくありません。
「しんしん」が擬音語であるかどうかは、一粒の雪が降って来た時に「シンッ」と表現できれば擬音語らしくなるのですが、そういった用例は見当たりませんしね…。
純粋に副詞とみなして、擬音語一覧に加えなかった単語の例
きっぱり、くっきり、おっとり、おめおめ、さっぱり、しっくり、しんなり、すっきり、すんなり、てきぱき、てっきり、てきぱき、げんなり、たんまり、ちゃっかり、のっぺり、のんびり、はっきり、まったり、むざむざ、ほっこり、やんわり、むちゃ、めちゃくちゃ、ゆっくり
参考
韓国語は擬音語からできている。
https://kvillage.jp/column/25688
この記事によれば「日本語は約1500語で、韓国語はその5倍にあたる約8000語の世界最多」だそうな。
誇大な表現ではあるけれど、みんな自分の国を自慢したいんだという事を再認識すれば、世界から見て「日本語が世界一」なことに客観性なんか無いんだよね。
同志(笑)によるブログ記事「日本語オノマトペ語彙の語源について」がこちらです。
http://odanizemi.ws.hosei.ac.jp/wp/?p=1728
意味を載せていないのが残念ですが、こんな一覧もあったりします(3000件程度)。
「あの漫画だなw」的な物はともかく、数え漏らしが無いか比べてみるのに使いました。
https://www.matopee.com/indexes/kana
matopeeの作者が昔書いた物と思われるブログ記事「日本語のオノマトペ一覧(暫定703件)」…しょっぱなから「あいーん」とは、第一声が志村けん^^;
https://write.kogus.org/articles/G6P2yH
擬音リスト2000件ぐらい(ジオシティーズだから、無くなる前に保存しとくか)
しょっぱなから「アッチョンブリケ」だけど、擬音語というよりは芸能関係のページだったのかも
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/1004/gion.html
勝手に(笑)姉妹サイト「SFX Translations」もよろしく!ただ前述の通り、漫画家個人の勝手に考えた擬音語はウチでは扱わないので、あしからず。
http://thejadednetwork.com/sfx/
ちなみにですが、英語の擬音語をまとめたページは見つかりやすいので、特にリンクは張りません。
大量に載せてるページとかも、けっこうありますね。
それから皆さん、語学で大事なのは「生活していく上で必要な言葉である」という意識を持って学ぶということです。
外国語は試験勉強のためではなく、生身の人間が生きていくための物です。例えば、体の不調を訴える時の表現だって相当数必要になるはずです。
そうはいっても学習者にとって擬音語はとっつきにくい印象があると思います。
数はいろいろ有りますが、ひとつひとつの単語の使用頻度はかなり低いため、わざわざ覚えようとするモチベーションにつながりにくいのです。
あなた方こそ英語の擬音語をどれだけ覚えて知っていますか?という話ですね。
【おまけ】
ちなみにですが「虫の声は日本人にしか聞こえない」なんていうトンデモ神経神話は信じちゃいけませんからね。「じゃあカエルの声はどうなんだ」とかツッコミ所満載ですよ。
日本スゴイ系だと思われないよう「ポリネシア人」とかいうワードを混ぜ込んでごまかしていますが、あのガセネタを広めた張本人は角田忠信という極端なナショナリストです。
人間の脳がそれを「虫の音」として認識できるのは、そういう虫の存在を知識として持っているから、単にそれだけの事です。
「音」とみなすか「声」とみなすかは単なる言葉のあやです。
「虫の声は日本人にしか聞こえない」に対する反論記事
フランスで聞く虫の音
中国の例
例えばベトナム人の場合は?
韓国の絵本
もうひとつ、おまけ
この中でも中国の例は、相当にわかりやすく「虫の音を愛でる文化」が存在していますが、このような文化の発祥には昆虫の生息域と密接な関わりがあります。
もちろん日本と中国の間の朝鮮半島にもこういう昆虫がいないわけがなくて、韓国語ではコオロギの鳴き声を「귀뚤귀뚤(グィトゥルグィトゥル)」と表現しますが、なんとこれがそのままコオロギの名前になっていたりしますし、韓国人の記事を拾い読みしてみた限りでは秋の美しい音色として認識している様子が伺えます。
タイ人にとっての鳴く虫の代表格はเรไร(レーライ)です。セミの仲間です。キーワードは "หรีดหริ่งเรไร" です。
さらにアメリカ人にとっては魚の鳴き声もあるらしい。口から泡を出す様子をblub(ブクブク)と表現してるだけですが。
とりあえず日本人とポリネシア人だけに限定する意味は全然わかりません。