終助詞「ぞ」の使い方 / 日本語の語尾

どうも学者の多くは語尾の「ぞ」に対して男性語のイメージを引きずり気味のようだけど。
チンピラみたいな印象を持っている人は、とりあえず各自で 運動会がんばるぞ をGoogle画像検索してみてくださいね。

まあ、私の感想といえば感想だが…生まれてから今まで「ぞ」という語尾を男言葉として意識して来なかったし、むしろ日本語で最も典型的な強調表現としてジェンダーニュートラルな印象なんだけどね。
終助詞「よ」「ね」と比べると会話での使用頻度は少し低くなるが、見出し・キャッチフレーズなどの文面、また子ども向けの説明文なんかではよく見かける。
冗談を言う時に限らず普通のマジメな言葉での使用例も確認できるので old-fashioned ではない。

これが単刀直入な説明だゾ

日本語学習者の中には、やはり終助詞「〜ぞ」に対してけっこう興味を抱く人も多いようだ。
教える側である日本人自身が、母国語の本当の姿を再認識する意味をこめて、まずは簡単にこのような説明をするといい。

『「ぞ」は男性語ではない。男なら普通に使うというのは誤った認識であり、会話ではなく主に掛け声で使われる物である。』

実際、海外の男の友人が「〜ぞ」をやたら使って、本人はそれが男らしいと思っているようだが、なんだか不自然に聞こえてしまう。もちろん女性でも「いいぞー!」とか普通に言うけど、どういう場面で使うのか、慣れの問題だよね……みたいなネット上の書き込みを見たことがあるのだが、リンクを貼りたくても今ちょっと見つけられなくてね…。


ハローキティちゃんの「がんばるぞ!」。デコメ屋で拾った。


「今日はこの仕事進めるぞー」という意思表示。『SE女子の日常』より


『ハトコのドタバタ育児日記』より。ママが大慌てで「わーっ!こぼすぞ」

あとは、 だぞ をGoogle検索してみるといい。
使われる場面をよくよく探してみると意外に色彩豊か。
単なる男性を示す記号と見なして、世界を狭めてしまうのはもったいない事だよ。
それではさっそく本場ネイティブの終助詞「ぞ」について考察を深めていこう。

「よ」と「ぞ」の比較

「よ」と「ぞ」は置き換え可能なようにも見えるが、注意深く見ていくと意味合いの違いがあることがわかる。
しつこい相手を退ける時の「いいよ!」で考えてみよう。
これは不満を表す言葉に「よ」をつけることで相手をブスッと刺している。
では、これを試しに「いいぞ!」と置き換えてみるとどうか。
……あれ、なんかおかしい。拒絶しているように見えにくくなったぞ。
自己主張をする時は普通「よ」を使って「ぞ」は使わないので、相手をブスッと刺すニュアンスも「ぞ」では表現できなかったんだね…。

また、「嫌なら来なくていいよ」を「嫌なら来なくていいぞ」に言い換えると、不思議なことに相手に与えるダメージが弱くなる。
「ぞ」はどちらかと言うと大勢に呼びかける意味合いがあり、一般論として聞き流す余地が生まれるからだ。

イラストで表現すれば、「よ」はビームを発射して狙いを定めるイメージ、「ぞ」は拡声器でしゃべるイメージになるぞ。


「ぞ」の文例

まとめると、「ぞ」は自分の気持ちを相手に伝える時には使いにくい。
「ぞ」は周りの状況を伝えるなど、自分の気持ちと関係のない注意喚起で使いやすい。
もちろん自分の意志を伝える時にも使うが、やや客観的に聞こえるため、さばさばしたドライな言い回しになる。
また、「よ」は話し相手の存在を前提としているが、「ぞ」の場合はいてもいなくても良い。

まあ、主観を排除した言い回しとしては「〜ぞ。」も大事な表現なので、なんとか教科書でもキチンと扱いたいものだが。
よく分かってない人は「よし、頑張るわよー」と言ってしまいがちだけど、それは全然意味が違ってしまうんだよ、私に言わせればね。
漫画「逮捕しちゃうぞ」の英語版タイトルが「You are under arrest」。
「I'll 〜」で表現してないわけだけど、こうして考えると意外にニュアンスは汲み取っているのかも。

「ぞ」は汚い言葉か??

「ぞ」という語尾に対して、あまり上品でないイメージを持っている人もいるかもしれない。
しかし実際にキャッチコピーではよく使われているし、ただちにお下品な言葉だと決めつけないでほしい。
これに関してはHiNativeの日本語話者からの説明も、なんだかひどい。
例えば「うるさいよ。」「汚いな。」「怒るぞ。」「へたくそだ。」という言葉がキツく聞こえる理由。
その文脈に原因があるのはもちろんだが、いかにもイヤそうな声色の方に原因があるのではなかろうか。
吹き替え声優に独特なあの声の調子とか、必ずDV夫が出てくる刑事ドラマとか、その影響で作られたイメージみたいなもんなので。
毒々しい男らしさ(toxic masculinity)を表すためだけに「俺は行くぞ」とか、そういう品の無い使い方は脇に置いておこう。

ママ会話としての「〜ぞ」


サザエさん原作4コマを漁って出てきた台詞「さァ!てってい的に家事をサボるゾ」
長谷川町子氏は典型的な「てよだわ言葉」の使い手だと思っていたんだが、
それでも終助詞「ぞ」の使い所は認識していたということだね。

外国人にとって、日本語の一番習得困難な所……それは漢字でも敬語でも擬音語でもなく「お母さん言葉」だ。
なぜかというと、生きた女性の言葉があまり市場に出回っていないから。そこは男女平等ランキングで日本が叩かれる所以である。
しかし最近は子育てママによるブログ記事やウェブ漫画が多く出回っているので、是非とも用例採集に活用してほしい。

日本語教師のN1ET のページでは「女性が使うと可愛い」と説明しており、女性の使っている例を認識しているのは良いが、同じ言葉が話し手の性別によって違う意味になるなんて事は無論ありえない。
タイ人がタイ語を説明する時でも「女性がよく使ってて、可愛い感じがある」なんて感想を述べる事はあるけれど、日本人が日本語を説明する時はどうしても「これが文化だ伝統だ」という含みがあり極端なのが気になっている。

幼稚園児の立場で考えてみよう。
不満を誰かに訴えたい時は「おなか痛いよー」と言えば良いらしい…。
おばけが「悪い子は食べちゃうぞー」と言っているのは、だいたいそんな本気なんか無い…。
こういった経験則から、終助詞「ぞ」にモダリティとしての運用実績が乏しいことを、小さい子なりに感じ取っているのだ。
ママはそのあたりを逆手にとって「早くしないと置いてくぞ」と話しかける。
内心ではイラッとしていても、言葉の上ではごまかしが効く(もちろん怒鳴り声では逆効果だけどね)。
だから、感情的にならない威圧しない表現として、けっこうママさんたちは語尾の「ぞ」を巧みに応用している。
世の日本語学者の誰も注目していない、終助詞「ぞ」の興味深い性質だ。

「ぞ」を使って、やんわりと注意する文例

※このセリフを眺めた時にチンピラではなく母親が、それも怒っているわけではない姿が思い浮かぶようになれば、だいぶ感覚が良くなってきているはずだ。

ここで間違えて「〜わよ」を使うと、逆にもろくそ身勝手な感情が入ってしまう。
その理由については「〜わよ / 〜わね」の解説ページで語ることにする。

ちなみに「付けるだけで優しくなる語尾」という、そんな都合の良い品詞は無い。
優しく柔らかく聞こえるかどうかを決めるのは、もっぱら声の出し方に委ねられる。
それに加えて、それぞれの語尾表現がどんな場面にふさわしいのか意識して使い分ければ「人心掌握術」も夢ではないだろう。


「国産だぞ。」
我が地元、長野県上田市の放つ『軍手ィ』



終助詞「ぞ」にしろ何にしろ、方言の違いなどでない限りは本義はひとつに定まっている。
話し手によって意味が変わるということはない。


【メモ】https://mangahack.com/comics/6289/episodes/54602

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