「たら」「れば」「と」の使い方 / 日本語の仮定・条件の表現
「〜たら(〜だら)」「〜れば」の使い分けには「完了形」という考え方を持ち込んでくるとスッキリするよ。
仮定文のおさらい
まず初めに現在形の形から確認するが、これは単なる仮定の表現だ。
現在形による仮定文
- この入門書なら分かるよ。
- この入門書を読めば分かるよ。
- 動詞または形容詞の場合は「仮定形+ば」という形にする。
- 「本を読む」という動作によって、どんな事が起こるか説明している。
- この入門書を読むなら分かるよ。
- これは「名詞句+なら」という形。名詞句というのは、ひとつの文をひとかたまりの名詞のように扱う事。「この入門書を読む」という話なら…という感じになる。
- 「本を読む」という言葉が鉤括弧に封じ込められ「そういう話なら」という意味に変質している。
- この入門書を読むのなら分かるよ。
- 「の」とか「ん」は名詞化するためのパーツなので、文法上は名詞の扱いになる。
- あらかじめ「この入門書を読む」という話があがっていて、それを取り上げて仮の話をする時の言い方。
「遊べば楽しい」という形は、単に「これはこうなる物だ」と言っているだけ。
これに対して、特に行動選択を問題にしている場合は「遊ぶならおいで」という形になる。ここが割と重要。
英語の条件文ifはどちらかといえば「名詞句+なら」の方とマッチングしやすい。
次は過去形の形について確認するが、これは過去の事には限らず現在完了や未来完了の意味で考えるべき場合が多い。
過去形による仮定文
- この入門書だったら分かるよ。
- 用意できたら行くよ。
- 動詞または形容詞の場合は「過去形+ら」という形にする。「用意できた」という条件が成り立つと同時に「行く」という事が起こる。どちらかといえば英語のwhen句に近い。
- 用意できたなら行くよ。
- これは「名詞句+なら」という形。「用意できた」という話なら…という感じで、英語の条件文ifに近い。
- この入門書を読んだのなら分かるよ。
- あらかじめ「この入門書を読んだ」という話があがっていて、それを取り上げて仮の話をする時の言い方。
- この入門書を読んだのだったら分かるよ。
- 「読んだ」と「のだった」を両方とも過去形にする事も文法上可能。少し過剰な気はするが「大過去」みたいな意味合いは出せるかもしれない。
- 「この入門書を読んだ」という話がとっくに上がっている今なら…みたいな感じかな?
- この入門書を読むのだったら分かるよ。
- 今度は「のだった」の方だけを過去形にしてみた。「この入門書を読む」の部分は現在または未来の話で、その話はけっこう前に上がっている。
本来は「〜ならば」「〜たらば」と表していたようだが、現在ではこのような場合に「ば」を省略するのが標準化している。
時系列を表す
これは、しばしば「発見を表す用法」としても説明される。
「〜たら(〜だら)」には時系列を表す用法もあり、その場合は仮定文や条件文のニュアンスは特にない。
「たら」の文例
- 部屋の中を覗いてみたら、誰もいなかった。そしたら…
- 「たら」を使うと時系列が明示され、必ずこの順番で物事が起きる。
- 「たら」を使うと、その後に何が起きるのか期待させる効果がある。
- 小説のような文章では「覗いてみると、」「すると…」とも言う。
「たら」以外の文例
- 傘を入れて、着替えを入れて、財布を入れて、
- 単純に連用形でつないでいく文章。普通に考えて、左から順番に物事が起きていくと考えるのが自然だが、必ずしも時系列は保証されない。
たとえばこの例文の場合、実際の順番はどうでもいい。 - またこのように単純な連用形だけでつなぐ場合、いくつでもつなげることができる。
- お風呂に入ってから、夕ご飯を食べる。
- 「〜たら」と似ているので、この例文も挙げてみた。
これは「いつから始めるか」という開始点に注目する場合の言い方になる。
- 冷たい物を飲んだ後に、おなかをこわしてトイレに行った。
- 「あと」という言葉を使って文章をつないだ場合、この2つの物事の間には時間的なへだたりがありえる。
疑問文と命令文
「〜ら」を用いて接続する場合、後ろに疑問文や命令文を置くことができる。
なお、「〜ば」のあとに命令文を置く例はあんまりないらしい。
文例
- 今から出発すれば何時に着く?
- これくらいの量なら大丈夫ですか?
- 犬の散歩をするなら、何時頃がいい?
- 大学に入ったら、どんな事をしたいですか?
- 受験生なら知っておけ。
- もし出掛けるなら、傘を持って行って。
- 食事が済んだら、お皿を戻してください。
願望を表す文章として
仮定法を用いて願望を表すのは、まあ、どの言語でもありふれた表現だよね。
「〜たら」「〜たなら」のような言い方をすると、過去・完了・時系列の3つのどれかのニュアンスが発生する。
実現性の高さとか、話し手の感情とか、その辺は完全に文脈依存なので、文章の形からは判断できない事に注意してください。
例
- たくさんの方に来て頂ければと思います。
- 「来て頂ければいいな」の省略。話し手がそういう考え方を持っているという意味。
これは現在形タイプなので、個別的な事柄よりも一般的な事柄で使われやすい。
- 鳥みたいに空を飛べたら。
- 過去形タイプの願望表現。過去の事を仮定しているので、実際には実現しなかった、あるいは実現し得ないという意味になる。
- 私も海外旅行に行けたらな。
- 完了形タイプの願望表現で、事情の変化に対する期待を述べている。とりあえず今はできそうにないが、決して実現性が低いわけではない。
- 「今度、見せてね。」「うん、できあがったらね。」
- これは単なる条件法であって願望ではない。必ず完成させるつもりでいる。
それとは逆に、起きて欲しくない懸念事項で「〜たら」と言う事も、もちろんある。
特に願望表現である場合は「〜ればなぁ」「〜たらなぁ」のように感嘆表現の助詞「な」を添える事もできる。
「行けたら行くよ」と言いながら本当は行く気がなくて結局行かない…なんてこともある。
何人だろうが何族だろうが、人は時にはウソをつきごまかす生き物だし、未来の事を100%約束するのは原理的に不可能だからだ。
残念さを表すには「けど」「のに」などの逆接が必要となる。
「たら」「れば」だけで残念な気持ちを表現できるかどうか、これもまた文脈次第だ。
例「時間があれば見るんだけど。」「くそぉ、昨日迷わず買っておけばなぁ…」
語尾に「〜たら」「〜れば」を使ったら?
「〜すれば」は仮定文だが、文末が「〜すれば?」で終わる疑問文は「〜すれば良いのではないか?」と提案する意味になる。
「〜したら?」で終わる疑問文についても同じように「〜すれば良いのではないか?」の意味になる。
ここで「〜たら」と「〜れば」の意味の違いを求めるのは少々苦しい所があるが、
「〜たら」は過去形(ていうか完了形)を使っているので「状況の変化」という意味合いが少し加わる。
「〜すれば」「〜したら」の文例1
- 試しにやってみれば?
- 試しにやってみたら?
- (やってみたらどうなるだろう?
まあ、試しにやってみれば良いのではないか?)
- もっときれいにトイレ掃除すれば?
- (きれいに掃除すれば良いと思う、してみると良いかもしれない)
- もっときれいにトイレ掃除したら?
- (きれいに掃除すれば良いと思う、いや、する方が望ましい、するべきだ、きっと良い変化をもたらすから)
それでは、疑問文ではなく平叙文で「〜れば。」「〜たら。」で文章が終わる場合はどうなるか。
これは完全に「空気読み」で、言わなくても分かるから言わないという物である。推測するしかない。
と言っても一般常識の話なので、小難しいお国柄の話とかは要らない。
「こうすればどうなる」「こうしたらどうなる」という感覚を育むためには、スポンジボブやひつじのショーンみたいなアニメもちびっ子のためにはなかなか良い物だ。
バカバカしいアニメのほうが、よっぽど情操教育になるよ。
「〜すれば」「〜したら」の文例2
- せめて、この科目だけでも高得点を取れれば……
- もう少し早く予約しておけば……
- もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーではなくコトラーを読んだら……
- 子どもが面白がって触ったりしたら……
「すると、」という言葉を使ってみると…
これは原因と結果を言う表現であり、厳密には仮定文ではない。
「Aが起きる」と「Bが起きる」という事があらかじめ決まっているような意味になる。
また、Aの後にすぐBが起きるという意味でも使われる。
「〜れば」「〜たら」のような仮定文とは違うので、「〜すると?」と言っても提案の意味にはならないし、「〜すると」の後は推測できない。
「〜すると」の文例
- たまねぎを切ると涙が出る。
- トンネルを抜けると雪国であった。
- トンネルを抜けたすぐ後(なんと驚いた事に)雪国になった
- 「このボタンを押すと…?」「リセットするよ。」
- 「And your name is ...?」みたいに、文章の続きをしゃべらせる疑問文。