20分でわかる日本語の人称代名詞

タイ語のだったら40分ぐらい欲しいが、日本語の人称代名詞は20分ぐらいで片付ける。
「日本語の一人称はこんなにたくさんあるんだよ〜」なんて言って、ずらずらーっと列挙し始めると、だいたいハメを外すから…
とりあえずそういう事は、普通の授業ではやめておいてもらいたい😓
そういうのは古語・方言に興味ある人だけ覚えればいい。
まず古語の説明は、きちんとした調査ができていないので割愛する。
役割語はフェイクだから説明しない。
方言はそもそも別の言語として見るべきだろうという話もあるから、今回はあんまり説明しない。

日本語における唯一の男女差

東南アジアの言語を見てみると、人称代名詞が男女で分かれてる物があったりする。
話し手の性別による使い分けをルールとみなすかどうかは、たとえば「あれ?女の人だけど○○って言ったよ?」と指差す人が実際にいるかどうかだね(苦笑)
そうでなければ単なるジェンダーバイアスなので気をつけてください。
たとえば「女の人なのに命令形でしゃべったね?」とか指差す人は、今までに見たことない。
丁寧語中間的俗語
話し手が男性わたしぼくおれ
話し手が女性わたしあたしあっし
この辺はその時々の流行みたいな物があり実際には時代による変化が大きいので、将来的にどうやって使い分けて行きたいかは次世代の人達に決めてもらいたい。

性別で言葉が変わるのは別に日本語特有でもないし、また、日本語が特別に性差が大きいわけでもない。
ちょっと横道にそれて外国語の話をすると、たとえば英語の he と she みたいに男女別の単語にしてしまうと、性別不詳の場合にどうするかという問題にしばしばぶつかる。
英語の場合はたまたま複数形 they が男女共通なので、そっちに逃げる事ができたけど、複数形でも男女別だったらどうするつもりなのか、ちょっと聞いてみたい所だね。
アラビア語は相手が男か女かで二人称の形が変わる。そこで例えば料理のレシピで女性形を使えば「料理は女だけがする物だとでも?」とツッコむ人も出て来る。
日本語でそういう問題にぶつかるのは親族呼称ぐらいで、本質的には日本語はそんなにジェンダーに縛られるような言語じゃないハズだと、私は思っている。

一人称代名詞

私(わたし)

わたくし、わたくしめ

我(われ)

あたし

僕(ぼく)

俺(おれ)

自分、うち

日本語の人称表現はベトナム式であり、人称代名詞というよりはむしろ「自分や相手を表す一般名詞」に近い。
ゆえに親子会話などでは次のような事も起こり得る。
子「あたしの落書きノート、どこ?」
親「あたしの?あたしの落書きノートは、あそこに置いてあるよ。」

方言の一人称についてちょっとだけ話すと、大きく分けて「わたし組」と「おれ組」が存在している。
前者には「わし、わて、わい、わっち、わだす」後者には「おら、おいら、おらほ、うら、おいどん」などがある。

二人称代名詞

貴方(あなた)

あんた

お前(おまえ)

君(きみ)

てめえ、貴様(きさま)

マレー語とかでもそうだけど、普通はあんまり話し相手を代名詞で呼びたがらない傾向がある。
日本語のこういった二人称はどちらかと言えば hey dude みたいな響きがあり、Person Pronoun と言うよりはほとんど Address Term に近い。
したがって、あまり二人称代名詞として汎用的に使える物が無い。
民族性がどうのこうのではなく、主題優勢言語であるがためだろう。
相手の肩書きや名前を知っていれば「先生」とか「琴音ちゃん」とか、通りすがりの知らない人なら「そこの人」とか呼ぶことになるが……最後の手段として「あなた」と呼んでもいいと思う。

三人称代名詞

彼(かれ)、彼女(かのじょ)

あいつ、そいつ、こいつ

奴(やつ)

丁寧語か否かを問わず、口語表現では三人称は無いと言ってもいい。
肩書きや名前を知っていれば「うちの社長」「ぽわんちゃん」とか、名前を知らなければ「あの子」「その人」とか呼ぶことになる。

複数形について

基本的には「〜たち」または「〜ら」をくっつけるだけで複数形になる。
現代語では「たち」が標準的なので丁寧語では「たち」を使う。
伝統的には「ら」を付ける用法もあり、文学的な味わいを持たせたり、あるいは、やぼったい感じに聞こえたりする。

一人称複数は「わたしたち」「わたしら」「ぼくたち」「ぼくら」「おれたち」「おれら」「うちら」となる。
このうちどれを使うかは発言者自身に依存し、メンバーにどんな人を含んでいるかは全く関係ない。
文語体としては「我ら」「我々」という表現もある。

二人称複数は「あなたたち」「あんたたち」「あんたら」「おまえたち」「おまえら」「きみたち」「きみら」「てめえら」「きさまら」となる。
これらの使い分けは上の方でいろいろ説明したのと変わらない。
ただし二人称代名詞を使う習慣が薄いため、目上と目下が混在する場合はどうするか、性別がどうだとか、そこまで細かい決まり事はないと思っていい。

三人称複数は「彼ら」「彼女ら」だが、男女混合の場合はどう呼ぶかなんて、そんな事は知らん(苦笑)
そもそも本来の日本語に三人称代名詞は存在しないので、普通の会話では「あの人たち」「この子たち」みたいに指示代名詞を使うのが一般的だ。
罵倒語シリーズは「あいつら」「そいつら」「こいつら」「やつら」。

複数の人の呼び方

実際のところ、このように「みんな」とか「みなさん」とかいう言葉を使って表すのが一番多い。

恋人・夫婦どうしでの呼び方

二人称・三人称ともに、名前で呼び合う。
「きみ」「あなた」「おまえ」と呼んだりするのは文語的で、日常では使わないと思っている。
子どもを持つようになると「お母さん」「お父さん」と呼びかけたりもするが、これは子ども目線を考慮する場合の呼び方である。
いずれにせよ普通は名前で呼び合う事が好ましいだろうと言われている。


一人称以外では「性別関係なし」と説明させてもらったが、一人称についても性別の固定観念を捨てる準備をしている。
ネット上の書き込みが「俺」だから男だという判断は、あまり当てにならないらしい。
よそでは「お上品な女性とお下品な男性」をモデルにして説明する傾向があるので、そこに惑わされないよう注意が必要。
そういう色眼鏡を取り払って考えると「性別関係なし」と判断できるためだ。

余談だが、日本語で最も一般的な愛称「〜ちゃん」はHiNativeの連中が言うような女性限定の物ではなく、「○○ちゃん」の名で呼ばれる男性芸能人もたくさんいる。
文法用語でいう「指小辞(diminutive)」に近い物なので本来は大人向きではないが、現実にはニックネームを選んだ結果「○○ちゃん」が通り名になる事も少なくない。


おわり!!20分で終わったかな…。
このサイトで扱っているのは現代語・標準語なので、古語や方言を引っ張り出してきてずらずらーっと並べることはしない。
ちなみに英語で似たような物としては「You buddy」とか「Your Exellency」みたいな term of address っていうのがある。
term of address にはどんな種類があるのか質問すると、ずらずらーっとお菓子の名前がたくさん並ぶ。

なお、冒頭で「40分くれ」と言ったタイ語の人称代名詞については、このページがわりとよくまとまってるかも。
タイ語のメモ帳

「僕」という言葉に性差を意識させない中性的な意味を見出したという面白い記事を見つけた。
なぜ女性歌手は「僕」について歌うのか〜アイドル・ソングの中の男女について〜

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